小説:SCENE


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Phases:「Sincerity」より
里留×里美

 「あれ? お兄ちゃん?」

 「・・・おう、里美か」

 「こっちきてたんだ。結奈お姉ちゃんのお見舞い? ・・・って、え、なにかな、その不機嫌な璃子ちゃんを前にしたような複雑な表情は」

 「お前、その例え・・・」

 「すっごく判り易いよね」

 「・・・」

 「やだ、大きな溜息。お兄ちゃん、老けるよ〜」

 「うるせ」

 「・・・ふうん。――――――ねぇねぇ、ところでこっちにはいつ着いたの?」

 「今朝」

 「もしかして駅から直ぐきた?」

 「ああ。冴子先生との約束まで少し時間あったから」

 「年末からこっちだもんね。マンションはあそこ?」

 「いや。今貸してる人が2年後にはアメリカ帰るっていうからさ、それなのに引っ越しとか大変だろうし、もうあそこは賃貸用で回す事にして、オレ達が別に新居探す事にした」

 「そうなんだ」

 「ああ」

 「・・・」

 「・・・はぁ・・・」

 「・・・――――――はぁ。ほんとどうしちゃったんでしょうか、うちのお兄ちゃんは。結奈お姉ちゃんが辛そうで落ち込んだの?」

 「いや。あのツワリ状態は昔も見てるし、その衝撃はあんま・・・」

 「だよね」

 「ん」

 「なかなか会えないねって、結奈お姉ちゃん、前にちょっと話してたから、お兄ちゃんがきて喜んでたんじゃない?」

 「ああ。なんか嬉しそうに迎えて貰えた。あの人のああいう、時間空けてもすんなり受け入れてくれる雰囲気ってのは、何ていうか、――――――変わらない。ホッとする」

 「わかるわかる」

 「・・・さっき、土産とは別に、見舞いとしてパイナップル持ってったんだ」

 「パイン?」

 「パイン」

 「パイン?」

 「缶詰の」

 「・・・なんでパイン?」

 「――――――前に、結奈さんがツワリの時、食べてたな〜って思い出して。そこのスーパーで買ってきた」

 「そうだったんだ。覚えてないなぁ」

 「・・・タイミング、悪かった」

 「何が?」

 「パインが」

 「パインが?」

 「オレが逸っちまった」

 「・・・ごめんなさい。里美ちゃん、全然意味わかりませんけど、お兄ちゃん」

 「・・・」

 「お兄ちゃん。見ての通り、あたくし結構忙しい身の上なのですよ」

 「・・・」

 「・・・じゃあ、またこん」

 「結奈さんが」

 「結奈さんが?」

 「何が食べれるのか」

 「食べられるのか」

 「奮闘中だった」

 「奮闘中?」

 「奮闘中。サイドテーブルとかに色々、タッパーに詰めてきて」

 「・・・ああ、三宅さんとか?」

 「和以さんが」

 「え?」

 「和以さんが!」

 「・・・うわぁ、そこでお兄ちゃんの"過去に食べられましたお墨付きパイン"が颯爽と登場したわけだ?」

 「・・・くッ」

 「ある意味の修羅場だね〜」

 「やめろ、里美。傷口に凍みる・・・」

 「情けない顔だなぁ」

 「・・・なんか、結奈さんも和以さんに言うタイミングを見計らってたみたいで」

 「そりゃまあね、ちょっと複雑だよね。前回まえはこうだったなんて、結奈お姉ちゃんが和以さんに、無神経に言う筈もないし」

 「・・・そこは言っとけよ」

 「あたしに言われてもねぇ」

 「おかげで居た堪れなくて、仕事あるからって逃げてきた」

 「こらこらお兄ちゃんや」

 「なんだよ里美」

 「璃子ちゃんに伝わったら、ペンってお尻叩かれちゃう情けない事件ですよ、それ」

 「・・・」

 「何て言うか、お兄ちゃん。変に和以さんには弱腰だよね」

 「弱腰? そんな事は」

 「ない?」

 「・・・いや、・・・ない、とは、言え、ない」

 「うんうん。だよね」

 「・・・和以さんが知らない結奈さんとの時間があるって、負い目・・・ってわけじゃないけど、何て言うか、な」

 「これはまた。裁判では緩急使い分ける舌戦が評判の、水守里留弁護士とは思えない切れの悪さ」

 「いや、――――――あの人が、結奈さんの事で右往左往する姿ってのが、どうしても見てるのが辛いって言うか・・・、ハッ、・・・里美・・・これも一種のトラウマなのか?」

 「いえいいぇ、それは一種の愛の告白では?」

 「・・・里美」

 「おおっと、冗談でした。こりゃまた失礼。――――――ま、仕方ないよね。義理の兄弟になった今でも、家族って一線の前に、お兄ちゃん、和以さんの事はどうしても尊敬してるし、大好きだもん」

 「・・・」

 「でも今ごろ、逃げたお兄ちゃんの背中見て、きっと二人で、悪い事したなって思ってるよ」

 「それも解るから、モヤモヤする」

 「それクヨクヨ。三十過ぎた男が、気遣い連鎖を断ち切る勇気を奮わなくてどうすんの」

 「お前のそういうとこ、マジで羨ましい・・・」

 「ほほほ。里美ちゃんパワーをわけてしんぜよう」

 「有難く」

 「よしよし、い奴じゃ」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・はぁ」

 「・・・溜息が重いから、お兄ちゃん」

 「もうほっとけ」

 「――――――あのさ、パイン。もしほんとに結奈お姉ちゃんが食べれるのなら、和以さんもホッとするんじゃないかな」

 「・・・」

 「きっと改めて、ありがとうって言ってくると思うよ」

 「それも解ってる」

 「・・・となると、今までの会話が大変不毛な気がするのですが」

 「そうでもない」

 「お兄ちゃん?」

 「お前と話してたら落ち着いた」

 「・・・え?」

 「――――――なんか、ツワリで苦しんでる結奈さん見て、それに寄り添ってる和以さん見て、昔の願いが全部叶ったような気がして、嬉しくて、泣きそうだったんだよ」

 「・・・」

 「その前に、お前つかまって良かったわ」

 「・・・・・・はあ?」

 「ああ、すっげぇスッキリ。お、そろそろ冴子先生との約束の時間だ。じゃな。あ、これお前に土産」

 「ちょ、お兄ちゃん!? あ、こら、廊下を走るな! くぅぅぅ、ほんっと信じらんない! いように担がれた!」

 「――――――あ、里美」

 「む」

 「小児科医、おめでとさん! その白衣、なかなか似合ってる」

 「・・・」

 「こっち越してきたら、璃子と改めて祝ってやるから」

 「・・・」

 「頑張れよ!」





 「・・・バーカ」









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