小説:ColorChange


<ColorChange 目次へ>



過去の事って気になりますか?
《 Acting.by アキラ 》

 指への愛撫だけで震えたケリの身体。
 昨日の今日で、どうしてこんなにも内側を侵したい気持ちになるのか。

 欲望を抑えきれない。
 盛りのついたガキみたいだ――――。

 自重しようとしても、まったく効き目がなく、ケリの甘い吐息をもっと近くで何度でも聞きたい欲求。

 欲しくて堪らない・・・。

 そんな支配したい気持からか、意地悪な質問が俺の口から放たれる。

  「ここ? それとも、寝室?」

 どこで俺に抱かれたいか。
 ケリの上気した顔が羞恥で揺れて、それでも、

 「ベッド・・・」

 小さなその囁きがそのふっくらとした口から漏れた時、"彼女"という領域にまた一歩近づける喜びが湧き立って、俺はどうしようもなく急かされてケリを抱き上げる。
 微かに悲鳴を上げた彼女は、それでもどうにか寝室の場所を差し示した。
 寝室に入ると、ベッド横にある籐家具のスタンドライトだけが点灯して、セミダブルほどのベッドがオレンジ色にライトアップされていた。
 ケリをベッドに降ろし、どことなく所在無げに視線を泳がせていた彼女の前髪をかきあげて、露になった額にキスをする。

 「ケリ」

 唇を離し、やけに影が走るその顔を見つめて、それからゆっくりと試すように近づいていくと、ケリは素直に目を閉じた。

 重なった唇を開かせ、舌を割り込ませる。
 届くところすべてに夢中で舌先を這わせる。

 俺の唾液で濡れていた冷たい左手に指を絡め、何度も擦る。
 まるで身体に触れた時と同じような反応が、その指先への愛撫に返ってくる。

 「あ、・・・や」

 ビクン、ビクンと、彼女の身体が波打った。

 (――――ウソだろ?)

 一瞬、そんな考えに動きが止まる。
 だけど、

 「や、どうして、私・・・」

 戸惑うようなケリの表情。
 その眼差しに涙が溜まって困惑に揺れていた。

 指への刺激だけで軽くイッてしまった自分に、導いた俺以上に驚いているようだった。
 初(うぶ)な反応に、また愛しさが溢れてくる。


 「――――ケリ。俺を見ろ」

 顎に指を添えて俺を見るように仕向け、目を合わせた彼女に微笑んで見せる。


 「指が性感帯って、知らなかったのか?」

 「え・・・?」

 「こんなの、普通だよ」

 「・・・」

 「可愛い」

 そう伝えてきた俺に安心したのか、彼女の唇から細い息が逃げる。
 そこにキスを落とし、そのままその白い首筋へと唇を進めながらブラウスのボタンをすべて外すと、俺は性急にスーツのジャケットごとケリの身体からはぎ取った。
 一度膝立ちで身体を起こし、俺も着ていた服を脱いで、改めて、肌を合わせるように密着させる。

 彼女の下着を残さず取り払って、順序よく丁寧に体中にキスを降らせていく。
 ケリの柔らかな胸の膨らみに、昨夜俺が付けたキスマークがまだ色濃く残っていた。
 考えてみれば、こういう印を相手の女に残す事自体が初めてだった。

 これも、情けないほどに隠せない俺の独占欲の顕れ。

 自覚した俺は、それをさせた張本人である彼女を追い詰めようと、時々吸い取った肌を甘噛をする。
 ビクリと反応して、確かめるように俺を見る仕草に、愛しさが込み上げてくる。

 「・・・」

 可愛いと思う反面、支配欲が出た。
 俺が想像する通りなら、この身体は・・・

 ジリジリと湧き上がる黒い感情。
 正比例するように指の動きを意地悪にする。


 「や、あ、待って、・・・っ」

 懇願するようなケリの声。
 俺の指が彼女の奥を刺激するたびにそれは喉の奥から自然と漏れ、それと交互に足の指先から内腿に至るまで、噛んで痛みを与える事で彼女の狂乱が大きくなる。

 「やめ、て」

 快感に震えながら、やはり上に逃げようとする身体。
 それを俺が引きとめる。
 その先の溺れてしまいそうな未知の怖さに耐えきれない様子が、助けを求めるように伸ばされた両腕に感じられる。

 「いや、おねが、あまぎさ、おかしく、な、・・・あっ、んぅ」

 強請るような彼女の声が、俺の本能を急かしていく。

 俺も、やばかった。
 ケリを求める気持ちが、昨夜よりも強くてどうしようもない。


 「―――ケリ、今日も、そのままでいいのか?」

 返答に意識があるかを確認できるよう、目を見ながら俺は尋ねた。

 「一応、ゴムは用意してきた」

 「!」

 この言葉に、ケリの瞳が揺れた。


 『俺以外に、あんたを抱く男は存在するのか?』

 さっきの俺の質問の意味を、一瞬で把握したようだった。


 「天城さ、ん」

 火照った身体に鞭打つようにして、ケリの両手がゆっくりと伸ばされ、俺の頬に触れる。
 力が入らないのか、動揺しているのか、微かに震えている指先。

 「私」

 激しく弾んだ呼吸の間に、彼女は誠実に、確実に綴る。

 「ピル、飲んでる」


 昨夜、繋がる直前に、『ゴム、ある?』と尋ねた俺に対して返されたそのセリフと全く同じ。
 あの時は酔いも手伝って理性を失い、止める事ができなかったが、今夜は違う。
 きちんと2人でラインを確認したうえで繋がりたかった。

 「私、不順で、管理しないと、体調が酷いの。だから・・・」

 「そうか」

 「それから、あの・・・キットを使っての最後のチェックから、"する"のはあなたが初めてだから、・・・」

 俺を見つめて真摯に告げてくるケリ。
 性に対する考え方を理解し合おうとするこういう所は海外での生活が長いからなんだろう。
 こういう姿勢すらも、俺のツボをついてくる。

 「俺も、夏に検査してクリアしてる。それからは、俺もあんたが初めて」

 1cmでも動けばキスができそうな位置で伝えあって、

 「―――いい?」

 俺の確認にケリは微かに頷いた。
 その首筋にキスをしながら、俺は"そのまま"で一気に彼女の中に入り込む。
 電流のように、灼熱が、腰から頭の天辺まで一気に駆け抜ける。
 既に何度かイッいる彼女の中は予想以上の熱さと締め付けで、油断するとまた持って行かれそうになった。
 手探りで指を絡ませる。
 腰を動かすと彼女の柔らかな部分が揺れて、そのたびに俺の感度も幸せに震える。

 「ケリ、ここ?」

 二人の最良の位置を探そうと、俺は容赦なく彼女の両膝を抱えて探索した。

 「っん、っ、っ、っ」

 激しい揺れが始まると、ケリは、声を押し殺すように手の甲が唇を隠す。
 俺はそれを制するようにキスをしかける。
 舌を絡めながら膝を抱え直し、突きあげる場所が変わると、彼女のキスに応える動きが一瞬止まった。
 ケリの甘い声が2人の重なった唇の間に呑みこまれて、そのたびに恍惚と痙攣を繰り返しす。

 ベッドの上で波打つケリの黒髪。
 俺の愛撫でバラ色に火照るその身体。

 汗ばむ肌が俺に張り付いてくる。
 高くなっていくケリの声。

 二人が交わった部分だけが放つ、混濁のラストノートが仄かに薫る。


 (だめだ)

 「はっ、」

 夢中になって果てる寸前に、俺は心中で舌を打った。


 まだ、

 まだだ。




 まだ、

 全然、足りない――――



 ――――――
 ――――

 結局、明け方近くまでケリを抱いた。
 最後は俺にしがみつくようにして意識を飛ばした彼女。

 「もうやめて」という行為自体を拒む言葉は無く、
 かといって、「もっと」とせがむワケでも無く。

 ただただ、ひたすらに自分を求める俺を受け入れた彼女。

 色付いた瞬間の彼女の顔を思い出し、俺の身体はまた反応する。
 けれど、同時に感慨深いため息も漏れた。


 「あ〜あ、色男がバラ色吐息をダダ漏れさせて」

 俺の顔を上から覗き込むようにそう言って、ニヤニヤと笑っていたのは遠一はじめだった。

 「遠一、・・・いつの間に入ってきた?」

 ソファに横たわっていた俺は、肘を立てて身体を起こす。
 ここは統括マネージャである樋口さんの部屋。

 今日の仕事始めは本来のスケジュールにさし込んだ"Stella"の記者会見内容のすり合わせ。
 ケリの部屋からカカシの運転するバンで直接事務所にやってきて、まだ開始時刻まで余裕がある事を確認した俺は、午前中は留守だという樋口さんの部屋で待機していた。

 「瞳ちゃんに今朝のアキラはお疲れモードって聞いて、眠ってるかと思ってそ〜っと入ってきたんだよ」

 「・・・」

 俺の向かいに腰を下ろし、「いいか?」と煙草に火を点ける。
 ふ〜と大きく白煙を出すと、遠一は顎をしゃくって笑った。

 「藤間に聞いたぞ? 昨夜も彼女の部屋にいたんだろ? なんて顔してるんだよ」

 「酷いか?」

 「というか、フェロモン出過ぎ」

 「は?」

 「お前、彼女と離れてから自分の顔、鏡で見たか? もう欲しくて堪らないって顔してる」

 「・・・」

 俺は、これから口にする事を一瞬だけ躊躇い、けれど話さずにはいられなかった。


 「――――彼女、ピルを服用してる」


 「おお!? "ナマ"か? そりゃあ夢中にもなるわな。まあ病気だけは気を、」
 「遠一」

 言葉を遮って、言いたいのはそいう言う事じゃない、と、俺は鋭い視線で遠一を睨みつけた。
 その応えに、分かってるよと言わんばかりに両手をあげて頷いてくる。

 指に持った煙草の紫煙が動きに合わせて広がった。
 それに包まれている遠一に、俺は言う。

 「ピルを服用してる女はこれまでにもいたけど、それでも俺は"装着(つ)けて"いたんだ」

 その理由を、俺は深く考えた事はなかったが、ケリを抱いて初めて気付いた。

 全然違う―――。

 これまでの女たちだって、ちゃんと好きで抱いてきた筈なのに、無意識で俺が与えている信頼度が違う。

 「―――でも今回は装着(つ)けてねぇって?」

 「・・・ああ」

 「騙されるって思ってないか、騙されてもいいって思ってるか、どっちだ?」

 核心を突いたその質問。
 目が覚めるようだった。
 そう。

 そういうことだ。

 遠一に、ケリのプライバシーを伝えた事は心苦しかったが、やっぱりこの話題をこいつにしたのは正解だと思った。

 初めて抱いた時、"俺の女"だと直感したあの感覚。
 俺の中にあるこの感情のピースに当てはまる言葉。

 「そう――――。信頼してるんだ。妊娠して俺とどうこう駆け引きをしようとする女だと、今お前に言われるまで想像もしなかった。その反面、もしそうされても・・・」

 捕まるのは実は彼女の方だと、ほくそ笑む俺が確かにいる。

 「・・・」

 ジジ、と煙草を吸って、今度は意図して真横に細く吐きだした遠一は、無言の俺にたたみかけた。

 「どうしたんだよ。そうやって彼女のすべてを楽〜しく探索できたんだろ? その割にはえらい複雑な表情(かお)してるぜ?」」

 「楽しく、・・・ね」

 遠一の言葉に、ベッドでの彼女を思い出す。

 俺のすべてに、全身で応えようとする、
 声も、吐息も、涙も、

 何もかも、愛しいと感じるのに―――――


 「従順で、受け身で、本当に、」

 黒い感情が彷彿と湧き出て、


 「―――苛々する」



 吐き出した俺に、遠一は単純に驚いた顔をしていた。
 俺の目は、"想像すらできない奴"に向けて鋭く光っていたはずだ。

 ただ、その俺の感情を、遠一が正しく読み取れるわけもなく、


 「―――マグロって話か?」


 ケリに対してそんな事を発言する。

 「違う」

 俺は即座に否定した。


 「―――あれは、一人の男の抱き方が染みついている身体だ」


 「は?」

 遠一が眉を顰めた。


 「前の旦那」

 「・・・ああ、そういうこと」



 そう。

 あの、従順さ。
 何をされても、驚きながらも黙って受け入れる許容性。

 耐えて、許しを乞い、けれど決して、"求める"事は口にはしない。


 俺とは違う男の"躾"が行き届いている身体。


 ベッドの中は、俺と彼女の世界のはずなのに、そいつの影がチラチラ過る。

 彼女が甘く喘ぐ度、
 涙を浮かべて震える度に、

 この姿を俺よりも知っている男がいるのかと思うと、壊してしまいそうなほど、攻め立てる事に執着した。


 愛しさと同じくらい、

 嫉妬が渦巻くSEXをしたのは初めてだった。








著作権について、下部に明記しておりマス。



イチ香(カ)の書いた物語の著作権は、イチ香(カ)にありマス。ウェブ上に公開しておりマスが、権利は放棄しておりマセン。詳しくは「こちら」をお読みくだサイ。