マンションのエントランスから部屋番号を打ち込み、向こうが顔を確認したら、施錠が外れて自動ドアが開かれる。 エレベーターに乗って目的のフロアに降りると、逸る気持ちが急ぎ足に現れてあっという間に玄関に辿りついた。 チャイムを押そうとした所で、中からドアが開いて彼女が静かな笑顔で迎えてくれる。 二日ぶりにみたケリは、室内なのにすっかり冬の装いで、黒とシルバーの糸で織られたニットワンピースがやけに色っぽかった。 「ケリ」 「天城さん。いらっしゃ、――ッん」 言葉が終わる前に、俺は乱暴に彼女の腰を抱きよせて唇を奪う。 最初は驚いたように身体が強張っていた彼女が、一度、二度と唇を挟んで舌を絡ませるごとに柔らかくなっていく。 だんだんと力が抜けて、暖かい息が弾むようになる頃に俺の胸に寄りかかる可愛さが出てきて、そんなふうに顔を赤らめて俯く彼女を、肩ごと抱いて息をついた。 愛しくて加減ができない。 「会いたかった、ケリ」 この二日間、会えない状況で気が狂いそうだった。 仕事の合間に、移動時間に、今ケリがどこにいるのかメールで確認し、抜け出して会える時間を計算して舌打ちを繰り返す。 そんな俺を知ってか知らずか、日常を思ったよりアクティブに動き回っているケリは、メールも電話も、色無く、素っ気ない。 それでも、 「私も・・・」 見上げてくるケリの漆黒の瞳が俺を目にして揺れるから、ああ、大丈夫だと安心する。 「そうか?」 俺はケリの耳たぶを口に含んだ。 そのまま言葉を綴る。 「俺に会えなくても本当は平気だろ?」 「そんなこと、ない」 小さく訴えたケリの耳たぶの根を舌で舐る。 「ん、」 肩がピクリと反応した。 「あるよ。あんた会いたいって、一度も言わなかった」 ちゅ、と首筋にキスを落とす。 鼻を擽る甘いフローラルの香り・・・。 「それ、は」 キスを音を立てて鎖骨まで下げていき、そこから耳元まで舌先で舐め上げる。 「・・あ、っ」 膝がカクンと折れて、背中の壁に倒れるようにもたれたケリ。 俺のコートの袖にしがみついたケリの全身から誘うような匂いがする。 「ケリ―――」 「待っ、」 「・・・とりあえず、コートくらいは脱ぎませんか?」 突然の第三者の声。 「ト、マ」 ケリの吐息から聞こえる名前。 いたのか――――。 「コート、お預かりしますよ」 俺達のこういうシーンを目撃しても気にもしない様子で、異性としてケリに好意を持っているのとは違うらしいが、 「あ、天城さん、入って」 慌てて俺の腕から逃げ出し、リビングに向かって行くケリの腰に何気なく触れて、すれ違うのをエスコートするトーマの手―――。 俺の視線に気付いたのか、トーマは自分の手を見て、「ああ」と笑った。 「他意はないですよ」 (その笑顔の、どこを信用しろって?) 「コート、お預かりします」 「―――ありがとう」 一応礼を言いながら、少し重さのあるコートを脱いで渡した。 それが意外だったのか、暫く動作を止めた後、トーマは目を細める。 「どういたしまして」 あくまでも最低限の礼節を醸し出して俺に対応するトーマ。 少し、興味を持ってこいつを観察する。 美形、と呼べるほどではないが、物静かな所作が全体的に雰囲気を出す男だった。 ストレートの黒髪が耳を隠し、ボディガードというだけあって、見える首の部分から察すると細身ながらもしっかり筋肉がついている。 それなのに不思議と、男臭さというものが無い。 「ああ、そういえば」 用意してきていたハンガーにコートを提げながら、トーマは俺の顔を何か意を含んだ眼差しで見つめてきた。 「この部屋の個室は壁は防音ですから。私が居てもどうぞお気になさらず」 「・・・そりゃどーも」 さすがの俺も面食らいながら言葉を絞り出す。 どうも遠一っぽい口調になってしまった事に嫌気を覚えながら、リビングへと足を進めると、ケリがキッチンのカウンターの中でコーヒーの準備をしている所だった。 「寒かったでしょう? 外」 「そうでもない」 ポットから出る湯気の中で微笑む彼女は、今の俺にとって唯一、胸を痛くするモノ。 ――――切ないもの。 「ケリ・・・」 彼女の背後に回って、項にキスを落とす。 ウエストに両腕を廻し、ぴったりと身体を引き寄せる。 「ベッド、行かないか?」 「え・・・?」 「二日で、充電が切れた。もっと、俺の近くに来て――――」 結局、トーマが戻ってくる前にケリを寝室に攫っていた。 ケリをベッドに誘い込み、俺は奪うようにその唇を食んだ。 「ん、・・・」 シーツを引っかけたケリの手は、指先が白くなるほど握られている。 最初からこの調子だと最後まで持たないんじゃないかと心配になった。 「―――舌、出して、ケリ」 言われて、泣きそうになる表情。 でも、従順な彼女は逆らわない。 35歳で、この容姿。 ほかの女が同等のチャンスを持っていれば既に百戦錬磨のツワモノだ。 ケリの、SEXに対するこの初心(うぶ)さ。 異性に対する無垢さ。 女性というより、まるで少女。 一人の男に抱かれ続けてきた過去を思って狂おしく考えた事もあったが、ある意味、俺は幸運なのかもしれない。 ――――――そう考えようと努める俺は、相当ケリに溺れている。 自嘲を抑え、躊躇して出されたケリの舌先に俺の舌を合わせた。 感覚を確かめるようにねっとりと動かしていると、ケリの腰が浮いてくるのが分かる。 彼女の両手を、俺の両手でしっかりと組伏せて、ケリの脚を割って腰をいれた。 まだ服の一枚も脱いでいないのに、肌を合わせたような温もりが全身に走る。 そのまま、正常位の格好でキスを続けた。 「ふ・・・、んっ」 繋げた指が、時々痙攣するように震えている。 前にイかせたように、ゆっくりと、意識させて執拗に指の肌をこすり合わせた。 時々、触れるか触れないかの擽りを交ぜると、開かれているケリの両足が俺の腰を挟んでくる。 吸いついていたケリの甘い舌を逃がしてやり、今度は俺の舌を強引に挿しこむと、2人の口内の熱が更に上がっていく。 「・・んっ、あ・・・」 柔らかく合わさる粘膜が、二人の境界さえも判らなくなるほど溶けあっていく。 こんなに気持ちのいいキスは彼女としか知らない―――― キスの合間に、ケリの表情を見た。 小刻みに震えている呼吸。 上気した頬。 瞳の潤い。 我慢が効かなくなり、次の段階に移ろうと深く合わさっていた唇を離した時だった。 (え?) 上身を起こして俺のキスを追いかけてきたケリ。 その唇が触れた途端、我に返ったのか彼女はハッと目を見開いて、 「・・・私」 まるで自分を否定するような表情でベッドへと落ちていった。 涙を浮かべて、まるで恥じ入るような彼女に対して、俺は込み上げる達成感と共に、すぐにでも彼女と一つになりたいという欲望を持つ。 「ケリ」 名前を呼んで、ケリのワンピースの裾を捲くりあげた。 素足だった彼女の下着を性急に脱がし、確かめるように指をあてる。 愛撫への応えが泉のように溢れている事を確認した俺は、自身のボトムも脱ぎ捨てた。 「え・・・?」 一気に駆け足で進んでしまった展開についてこれない様子のケリ。 「俺を呼んで」 彼女の耳に舌を入れる。 「あ、んっ」 同じタイミングで、俺の腰を沈めようと繋がる部分を密着させる。 「待って、あ、天城さ」 水音がしているのは俺の舌からなのか、ケリのそこからなのか。 そんな感覚すらも遠くのもので、彼女を乱したい欲求に自制が効かない。 「欲しい」 「あ、」 「ケリ」 躊躇いもなく奥まで突くと、ケリから恍惚とした息が漏れる。 それを切っ掛けにまた歯止めが効かなくなる。 俺は欲求を制する事もなく、深い律動と浅い律動を交互に繰り返した。 こんなSEX、ガキでもしない――――― そう自嘲できるほどに、ひたすら自分の為に彼女を攻めるセックス。 「呼んで、ケリ」 「あ、あま」 「俺を、っ、欲しいって」 激しさに、お互いの言葉が喘ぎ声に埋もれていく。 俺を求めさせたい―――― 「もっと、俺を、呼んで」 世界が、刻むように揺れている―――――。 |