小説:ColorChange


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過去の事って気になりますか?
《 Acting.by ケリ 》

 彼に抱きすくめられると、私の身体は魔法がかけられたように操られてしまう。

 「ベッド、行かないか?」

 甘い囁きに、"NO"と言えずに組み敷かれてしまった。
 トーマもいるのに、いくら防音されているからといって寝室に籠もってしまうような事、思春期の学生だって配慮する気がする。
 これまで信じてきた倫理をすべて無視して、天城さんの愛撫に身を委ねて啼いている私。

 狂おしく夢中になっている私。

 どうかしていると思うのに、与えられる快感に自我を失ってしまう。

 (恥ずかしい・・・)

 洋服を着けたまま、まるで行為をしているかのように足を広げている私のそこに、着衣の上からでも彼の高ぶりが感じられる。


 "欲しい"と思ってしまっている自分がいる――――。

 天城さんにしっかりと掴まれた両手は、するすると擦られて敏感になっていた。
 以前感じた波を記憶から呼び戻し、身体が期待に震えているのが分かる。

 どうしよう・・・。
 泣いてしまいそうなほど切実な闇。

 怖いくらい、どんどん、自分が淫らになっていく気がする・・・。


 「ケリ」

 天城さんから齎されるキスが気持ちいい。
 差し込まれた天城さんの舌に弱く吸い付くと、彼の唾液の甘さが良く分かる。


 『あんた、すげえ甘い―――』

 初めて身体を重ねたとき、天城さんがそう言ってくれた事を思い出した。


 あなたも、こんなに甘い――――

 こうして、感じていくことで行為を紡ぐのが、SEXなの―――?
 こんな事すら、本当に私は、知らなかった・・・。


 ふと、

 唇が離れて温もりが失われた。
 濡れている分だけ、空気の冷たさが唇を襲ってくる。

 いやだ、


 (離れないで―――)

 無意識に思ってしまった私は、思わず身体を起こして彼の唇を追いかけていた。


 「!」

 唇が触れた瞬間、我に返る。


 「私・・・」


 鼓動が酷く跳ねた。

 信じられない―――。

 こんな自分が恥ずかしくて、天城さんの顔を直視できなかった。
 顔を逸らすと、耳元で彼の甘い声が言葉を紡ぐ。

 「ケリ、もっと」



 え―――?


 「もっと欲しがって、俺を呼んで」

 天城さんの顔を恐る恐る見上げると、愛しむような微笑を浮かべて私を見下ろしている。
 恍惚とした眼差しが、私の自虐を砕くように射る。

 「欲しいって言って」


 ああ―――、


 「天城さん」


 好き。

 この人が、堪らなく、こんなにも、


 ――――― 好き ―――――


 耳の中に舌先が入ってくる。
 水音が頭の中を刺激して、ジリジリとした痺れが脳のどこかに生まれる。

 「あ、待って」


 うそ、イク―――。

 何かが頭で弾けて、同時に自分の中が激しく収縮しているのが分かる。
 こんな事で震える私の身体。

 (怖い・・・)

 耳元で繰り返される彼の呼吸。
 吐息と共に私に降りかかる彼の熱。

 (怖い、のに)


 欲しい・・・。

 彼の熱さを、私の中に共有したい。

 どうしてこんなにも――――・・・


 (もっと―――)


 こんなにはっきりと、自分の欲求を感じたのは初めてだった。
 でも、言葉になんかできるはずもない。

 (もっと、)


 「欲しい――――」

 「え?」


 私の心を代弁するように、天城さんの口から零れ落ちたその言葉。

 合わせた藍色の彼の瞳から、
 欲しいと言ったその声から、

 狂おしいほどに、
 私との繋がりを求めているのが伝わってくる。


 「欲しい」

 再び宣言したとたん、私はあっという間に下着を取り払われた。
 入り口にあてられたかと思うと、私を押し開くようにして天城さんが一気に入ってくる。

 「はっ、あ・・・っん」

 彼を奥まで受け止めると、自分でも聞いたことがないような高い声が喉から漏れてしまった。

 「ケリ」

 息を弾ませて、彼が激しく、時に優しく動いてくる。

 そのたびに、私の身体が揺れて、
 彼の髪が揺れて、

 身体の中の水も揺れて、

 そして―――――私の心の水面も揺れる。


 「ケリ」

 「あっ、あ、んっ」


 深いキスをされる。
 絡み合う舌の温度が、また上がっていく。
 どちらも抜き差しをされて、世界の向きが分からなくなる。

 「んん、あっ」

 「ケリ、名前、呼んで」

 快感の波は止まらずに、私の思考を突き上げる。


 「天城さ、あっ」

 「違う」


 カリ、と耳たぶを噛まれる。

 「名前、まさか知らないなんて、ないよな?」

 極限を我慢する苦しそうな表情で、
 切なく色っぽい表情で、
 私を激しく揺らしながら、

 彼は私に懇願する――――。

 「あんたに、呼ばれたいんだ」

 いつもいつも、真っすぐに私を求めてくれる彼。


 「・・・っ」

 泣きそうになる。
 愛しさが溢れる。

 2人だけの行為に耽るこの世界で、恥ずかしいなんてあるわけない。
 今、私を抱くこの人は、行為と言葉でそんな事を教えてくれる。

 「・・・きて」

 口にした途端、想いと一緒に涙が溢れてきた。

 「ケリ」

 「私、おかしい」

 首を振ると、目尻から涙が零れた。

 「大丈夫だ」

 その涙をキスで掬ってくれる。


 「・・・ラ、――キラ、アキラッ」

 名前を呼びながら、彼の首に縋りつくように両腕を廻す。


 「もっとシテ」

 「ケリ」

 「もっと、もっと、あなたが欲しい―――」


 私の願いに、アキラの妖艶な藍の眼が細くなった。
 その色香が際立つ微笑に、私のココロを包んでいた最後のヴェールが、するりと抜かれた。


 「もっと―――」

 密着度を求めて、私は両脚で彼の腰を抱え込んだ、
 そうする事で彼の動きがよくわかる。
 律動のリズムも全身を揺さぶって伝わってくる。

 「く、ケリッ」

 切欠を得たように、狂いそうなほどに激しく私の奥を突いてくる彼の動き。
 着ていたワンピースの裾から手を入れられ、ブラの隙間から胸の先を痛いくらいに掴まれる。

 「ああっ!」

 思わず身体が浮いて仰け反ってしまった。

 「ケリ」

 「あ、・・・んっ、あ」

 結合部だけが肌と肌のぶつかるところ。

 快感を閉じ込めようと腿の付け根を無意識に締め付ける。
 そうするとまた、別の所から痺れが駆け上がってくる。

 自分の動きで自分の快楽を操れるなんて、知らなかった。
 こんなことをするのは初めてなのに、羞恥心もなにも、考えられない・・・。 


 どうしてこんなにも――――・・・


 「アキラッ・・・、」

 痙攣する自分の身体。
 悲鳴のような自分の喘ぎ声。

 真っ白な光があちこちにはじけ飛んだのが見えて、私は意識を失ってしまった――――・・・








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