小説:ColorChange


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過去の事って気になりますか?
《 Acting.by アキラ 》

 好き――――
 会いたい―――

 ケリが紡ぐと全てが官能的だ。

 話しているだけで、"あの時"と同じように骨髄にクル快感が訪れる。

 俺がそうなら、きっとケリにも・・・。

 そう考えて、俺が初めてケリに覚えさせた指で感じるオルガズムを擬似的に記憶から連鎖できるよう、会うたびに刷り込みをして、ここ数回は電話での愛撫で俺を感じさせる事ができている。

 その震える声を聞くと、また俺の本能が刺激されて会いたくなって―――。
 結局、会えない時の悪循環を生んだだけだった。

 ため息が出る。


 どれだけ彼女に嵌れるのか、俺自身もわからない―――。
 今日のスケジュールを全てこなし、俺と藤間は久留米駅近くの宿泊先ホテルにたどり着いていた。
 19時も近くなると流石に辺りはもう真っ暗で、ネオンの明かりが映えて輝いていた。
 ホテルロビー内の煌びやかなオレンジの照明も、夜目に痛いほどさしこんでくる。

 「アキラさん」

 チェックインの手続きを済ませた藤間が携帯片手にやってきた。

 「晩御飯はどうしますか?」

 ホテルのロビーを見回す。

 「中華レストランならホテル内にあるみたいですけど」

 「あ〜、ここからは別行動な」

 俺が濁すようにそう言うと、藤間は眉を顰めた。

 「誰か、と会うんですか?」


 またこの雰囲気。

 「何だ?」

 藤間の何かを含んだような言い方に大人気無くムッと返してしまう。
 ここ数日、遠一といい藤間といい、俺の行動に警戒を走らせているのが伝わってくる。

 「この前から一体なんなんだ?」

 「・・・何がですか?」

 チッ。

 思わず舌打ちが出る。
 隠すんならこっちが気にならないほどに完璧に仕掛けてほしい。
 というより、仮にも俳優相手に演技しようって考えるんなら、シナリオはしっかり用意しといて欲しいもんだ。


 「明日は何時だ?」

 「―――7時30分にはホテルを出て、生番組1つ。同局内で取材2つ。その後は空港に向かいます」

 午前中は結構ゆっくりだな。
 "明太子"は空港で買うか。
 ケリの意思が込められた"スキ"を思い出して笑いが出る。
 彼女の柔らかな笑顔が過ったら、少しは嫌な気分が和らいだ。


 「7時30分ね。分かった。じゃあ、ここから自由時間な」

 俺は手を上げて立ちあがる。

 「アキラさん、これ」

 藤間がルームキーを差し出した。

 「それともフロントに預けておきますか?」

 「いや、持って出るよ」

 俺はコートの内ポケットにキーをしまい、変わりにサングラスを取り出した。
 ホテル内の客の中には俺の存在に気づいていた人もいて、その行動に釣られるようにして何人かが動き始める。
 案の定、ホテルを出た途端に何人かからサインを求められ、遠巻きに携帯を向けられた。
 色紙2枚にだけサインを対応してタクシー乗降用スペースまで歩く。

 「ここからはプライベートだ。良い子にな」

 俺が告げると、はーい、と素直な返事があがり、ファンの子たちが距離を取る。
 ドアが開かれたタクシーに、俺は素早く乗り込んだ。
 まだ俺の方を見ていた彼女たちに軽く手を振ってやると黄色い歓声が上がる。

 「お客さん、どちらまで?」

 「とりあえずホテルを出てもらえますか?」

 「わかりました」

 アクセルが踏みこまれる。
 ようやく隔離されたような空間で、俺は携帯を開いた。
 メールを開き、受信ボックスから返信する。


 件名 Re:久留米で会える?
 本文 いまマネと別れた


 送信。



 直ぐに返信がくる。


 件名 Re:Re:久留米で会える?
 本文 リージェント福岡にいるの


 ホテル? ――――さすがにまずいか。



 件名 Re:Re:Re:久留米で会える?
 本文 別の場所にしてくれ


 送信

 光る受信ライト。


 件名 
 本文 あたしも動けない


 ・・・仕方ないか


 Re:
 本文 わかった。すぐ行く。

 送信


 「すみません、リージェント福岡まで」

 「分かりました」

 タクシーは中央車線へと移動後、スムーズにUターンした。



 件名 Re:Re:

 本文 待ってる 603号室



 窓の外に流れるネオンに目をやる。
 目が慣れてくると、その手前に映る自分の顔が目に入った。
 サングラスをかけていても、窺える物憂げな表情。

 今から行く先でどんな結果が待っているのか。
 男として、こんなに迷っている自分の顔を、初めて情けないと思った。








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