1コール、2コール――――――、 携帯から聞こえる呼び出し音が、やけに大きく耳に届く。 もう何十回とかけているのに、同じパターンの音階が空しく繰り返されるだけだ。 「お願いだから出てくださいよ・・・」 5コール、6コール、 「ダメだ・・・」 ボクは通話を切った。 その途端に受信が入る。 一瞬見えた着信名を、縋るようにして口にした。 「遠一さん!!」 『藤間! アキラは?』 「まだです! まだ連絡取れなくて」 『いい、こっちの電話からかけさす』 そう言うと、少しの間携帯から離れて事務所の誰かに指示を出していた。 今朝、朝食はしっかり食べるアキラさんが7時になっても部屋から出てこないのを不思議に思ったのが始まり。 携帯にも応答せず、部屋の電話も取ってくれない。 7時10分になっても状況が変わらず、ホテル側に事情を話してマスターキーで開けてもらうと、部屋はもぬけの殻だった。 ベッドはメイキングされたままで、戻ってきた形跡が無い。 昨夜、ロビーで別れたきり、アキラさんの所在は知れなかった。 『ったく、何やってんだアイツ』 「本当にすみません」 『お前じゃない。まあ、監督不行き届きで連帯責任だけどな? あいつを止められるのはオレか樋口さんくらいだ。それを分かってて好き勝手したアイツが悪い』 「すみません」 電話の向こうの遠一さんに頭をさげる。 もっとしっかり、一体誰と会うのか、何処で会うのか、聞いておくべきだった。 後悔ばかりが胸を潰す。 『あと40分か』 遠一さんの声に、ボクはベッドヘッドのデジタル時計を見た。 7時40分。 生放送のTV局への入りが8時予定。 映画の宣伝コーナーとして設けられた枠が8時20分から。 主要都市用の宣伝スケジュールだから、共演者も何人か一緒だ。 「あ」 ボクは声をあげた。 「一緒に出演予定のアサミ陽子さん。アキラさんの元カノでしたよね? 例えば、福岡のどこかで待ち合わせして、一緒に居るとか?」 『それはない。・・・これは極秘だが、陽子には旦那がる。夫婦そろってアキラの親友みたいなもんだ。だから陽子と一晩一緒にいるなんてまずあり得ない。それに・・・今は"最愛"がいるから、たぶん、事故か事件かだ』 "最愛" 遠一さんのオンリー1の呼び方。 「・・・もしかして、ケリさんに会いたくて、帰っちゃったとか? 電話、してみますか?」 『そりゃないだろ。第一お前、電話して騒がして、万が一、あいつが女と一緒だったらどうすんだよ』 ・・・信じてるんだかそうじゃないんだかの発言に、ボクは混乱を極めた。 「遠一さん、それじゃあ、」 これからどうすれば―――――― 言いたかったボクの言葉は、次の遠一さんのセリフによって遮られた。 『―――あぁ? それ、アキラか? 藤間! アキラに繋がった、ちょっと待ってろ!』 「はい!」 全身に鳥肌が立った。 脱力と、安堵とで、腰が抜けた。 デジタル時計を見ると、7時47分だった。 |