ずっと、 本当にずっと、 誰かの携帯が鳴っている―――― 頭が痛い・・・ 音が頭蓋に響く・・・ 早く止めろよ。 まじで、イラつく クソ、なんでこんなに、頭が、――――― 脳みそに手を突っ込んでかき回したいくらいの頭痛に、 俺は救いを求めるように、目を、 開けた――― 眩しい陽光が入ってくる部屋。 やけに冷え込んでいる空虚な室内。 ホテルの、部屋・・・? というより、この明るさ、今何時だ? 昨夜は、いったいどうやって・・・ 「!」 頭痛を凌ぐほどの衝撃的現実に、俺は勢い良く身体を起こした。 不自然な体勢で眠っていたせいか体中痛い。 乱れていないベッドの上に、倒れ込むように横たわっていたと言っていい。 身体には布団代わりに俺のコートがかけられていた。 テーブルには飲みかけのコーヒー。 半分も飲んでいない。 口をつけたのは、覚えている。 部屋を見回した。 ヨーロピアン調の備品。 特徴的な猫足のテーブル。 何度か泊っているホテルだ。 リージェント―― (そうか・・・昨夜、部屋に呼ばれて・・・) なんとも言えない不穏な気分が込み上げてくる。 (やられた、な) そうこう考えを巡らせている間も鳴りを止めない携帯は、コーヒーカップの向こう側に隠れていた俺のものだと気付く。 ベッドヘッドの時間を見ると7時46分だった。 出演枠のある生放送番組の開始まで14分。 「やばい、な」 焦りまくる藤間の顔と、怒り狂う遠一の顔が交互に浮かぶ。 頭痛がする患部を刺激しないように、ゆっくりとした動作で携帯を手にとった。 「――はい」 『え? ―――あっ! アキラさんですかっ?』 「・・・ああ」 知らない女の声だ。 『遠一さん! 出ました! アキラさんですぅ!!!』 事務所の固定電話でかけているのか、受話器を乱暴に扱う音がガチャガチャと響いて、それから懐かしい気もする親友の声が聞こえた。 『おい! どこにいやがる、愚か者』 「悪い。すぐTV局に直接向かう。藤間に着替え準備しとくように言っておいてくれ」 『分かった。・・・大丈夫なのか?』 「―――頭痛が酷い。頭が割れそうだ」 『分かった。薬も用意させとく』 「遠一、すまん」 『事情は後で聞く』 「・・・」 遠一の言葉にため息が出る。 話したくないと思うのは、迷惑をかけたこの状態では我儘でしかないだろうか? ――――ミサ。 眠気に呑み込まれる直前に見た、あいつの顔を思い出した。 後悔で泣きそうな顔に、状況を分かったあの瞬間でも、仕方なく許してやる気になった。 絆(ほだ)されたな―――。 重たい頭の痛みを意識の端にどうにか閉じ込めて、チェックアウトをしようとなんとかフロントまでたどり着くと精算は既に済んでいた。 鈍い鐘が鳴るような痛みを孕む脳の中で、この状況の何が目的だったのかすら、まともに考える事もできない。 タクシーに乗り、行き先を告げて落ち着くと、ケリに昨夜電話できなかった事を思い出した。 局に着くまでの間、少し話がしたいと思ったが、逡巡した結果、思いなおした。 今彼女の声を聞いたら、会いたいという気持ちが、止められないような気がした。 |