小説:ColorChange


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過去の事って気になりますか?
《 Special-Act.by ルビ 》

 ノックが聞こえたような気がした。
 続き部屋になっているホテルのスイートルームの、ここは一番奥の部屋だから、どこか別のドアのノックが聞こえたという事はないはずだ。

 【ん・・・どうしたの? ルビ】

 上半身を起こした僕に、寝がえりを打つようにして薄眼を向けてくるマリア。
 エメラルドの瞳が、明け方まで続いた行為の余韻をまだ残している。
 分厚いカーテンに隠された室内で、それでも僅かに差し込む陽光が彼女の金髪に反射した。

 【ごめん、寝てて。大丈夫だから】

 屈んで彼女の額にキスを落とし、ベッドから抜け出す。
 途端、全裸にすり寄ってくる冷たい空気。
 マリアと共有していたベッドの中の温もりは、あっという間に消えてしまった。
 カウチの曲線に下がっていたムートンのガウンを羽織り、合わせを結んでからドアを開ける。
 リビングに続く廊下に、ウェインが立っていた。

 「ウェイン・・・どうしたの?」

 難しい顔をしている。
 彼がこういう顔をしている時は、碌(ろく)な事が無い

 「天城アキラがスクープされました」

 「え?」

 ウェインが差し出した雑誌を受け取る。
 広告ページの後、記事としてはほとんど巻頭扱いだ。

 写真はモノクロで2枚。
 都内某スタジオ前で腕を組んで笑う二人。
 そして昨夜の日付で、福岡のホテルで落ちあった二人の秘話。
 ご丁寧に部屋を開けた女性が天城アキラを出迎えるシーン。

 思わずため息が漏れた。

 「向こうで話そう」

 僕はウェインを従えてリビングへ進んだ。


 【おはようございます】

 さっきまでいた寝室とは打って変わって、陽光が差し込んで明るい室内の中、ソファから立ち上がり、マリアの執事が一礼した。

 【おはよう。Mr.ワイズマン】

 ダークブラウンの髪。
 銀縁の眼鏡。
 涼やかな眼差しで笑顔を向けてくる。

 マシュー・ワイズマン。
 マリアの専属執事。

 【よろしければコーヒーをお持ちいたしますが?】

 【ああ、ぜひお願いします】

 申し出に、僕が遠慮なく給仕を促すと、透かさずキッチンの方へと歩き出す。
 恐らくはウェインが醸し出す空気を読んで席をはずそうとする行為だと想定できた。


 その背中を見送って、僕はソファに腰掛ける。

 「まあ、ウチ(本宮グループ)で抑さえているのは、ケリに関する記事だけだしね」

 雑誌をテーブルに投げる。
 週刊フェイス。
 出版社名は・・・確か前回交渉した企業一覧の中に見た気がする。

 「これ、今朝発売?」

 「はい。10時から店頭に並んでます」

 「昨夜の今日、か。――――この写真のアングルとタイミング的所感からして、"ヤラセ"だね」

 「とは、思いますが・・・」

 眉を顰めるウェイン。
 ケリを心配しているのが手に取るようにわかる。
 目が覚めてくるとシャワーを浴びたい欲求も出てきた。

 「ウェイン」

 寝起きで、機嫌がいつもより斜めだったのは認める。
 昨夜飲んだシャンパンも残っているかもね。

 「僕はね、あの二人がこれで壊れても全然構わないよ。どうせケリと離れる事が選択肢にあるなんて考えてもいなかったし、むしろ僕に依存して一生傍にいてもらっても全く問題ないと以前から決めていた。だから日本について来ることも、結構ほんっとうに面倒くさかったけど甘受したわけだしね。なのに、いざ日本についたら2ヶ月も経たないうちに、ケリは自立心に目覚めて別に暮らそうと言い始めて、挙句君に裏切られた結果、天城アキラに手を出され、なのに前回スクープされた時は、甲斐甲斐しくケリのために動いたわけ」

 でなければ、これだけの長いセリフを勢い任せで言えるはずはない。
 ウェインが呆気に取られた顔で見つめいてた。

 「つまり、」

 僕は立ちあがる。

 「今回に関しては僕は何もフォローはしない。でも、ケリが傷ついたら、慰めるのはもちろん僕だけどね。監視と報告よろしく」

 「わかりました。・・・どちらへ?」

 「シャワー浴びてくる。それまでコーヒーは冷ましといて」

 言い捨てるようにして、僕はシャワー室へと歩みを進める。


 ケリ・・・。

 もう、ワイドショーから耳にしているのかもしれない。
 ケリが傷つく事を思うと、チクリと胸が痛む。


 ――――さあ、天城アキラ。


 これが最初の難関だよ。
 正しくクリアできないと、この後も決して、続きはしない。
 ずれた歯車が、痛く痛く、廻っていく二人になる。

 あなたはどんな答えを、

 ケリに、

 そして僕たちに、示してくれる――――――?








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