俺の目の前で、やけに胸元を開いて屈んでくるインタビュアー。 テーブルを挟んで2mは離れているのに、香水の匂いが襲うように届いてくる。 「この映画の見所は?」 「そうですね・・・リアルとイメージをエロティックに演出している映像美とか、多分見所ですね」 「え? 女子としては気になるところですね。ズバリ、エロ部分ですが、アキラさんのベッドシーンがあるって事ですか?」 「まあ、ありますけど、女子として気になりますか? そこ」 俺がわざと目を見つめて微笑むと、彼女は爆発しそうな勢いで顔を赤らめて声をあげる。 「そりゃあもう!」 つい先ほど、生放送での仕事が無事に終わった。 局入りの時間には遅れたものの、収録と以降の取材は予定通りに進んでいる。 今は各出演者の単独の取材に入っていて、まずは俺。順次、別室で控えているヒロイン役の陽子に継続される予定だ。 朝から俺を悩ませている頭痛は未だに止まなかった。 鎮痛剤を飲んでいるのに、一向に効く気配がない。 普通の頭痛じゃないと思う。 恐らく、これは副作用だ。 昨夜盛られた、睡眠薬の――――――。 そんな事を密かに考えながら取材を往なしていると、ふと、一人の男性スタッフが俺を見ている事に気がついた。 さっきまで撮影用のレフ板を持っていた奴だ。 写真を撮り終えたら役目がないらしい彼は、俺の視界の隅でひたすら携帯を触っていた。 音消しもしていたし、ここ数年は職種によっては仕事中に携帯を触るのも業務の一環だと言う傾向もあるからあまり気にしていなかったが、なぜか、通話をしながら俺に向けてくるようになった視線が気になった。 その時、 「アキラさん!」 取材の間は待機しているはずの藤間が、ノックも無しにドアを開けて入ってきた。 朝から俺が冷や汗をかかせたせいもあるかもしれないが、心なしか顔色が悪い。 「藤間?」 「すみません、取材はまた今度でお願いします。正式にうちの事務所からそちらに謝罪がいってますので、天城はここで失礼します」 頭を下げながら、強引に俺を連れ出そうとする。 怪訝に藤間を見た俺の視界の端で、インタビュアーが男性スタッフに耳打ちを受けて見る見る目の色を変えていた。 「アキラさん! 行きますよ!」 切羽詰まった藤間の雰囲気に、俺は黙って従う事にする。 俺の知らない何かが起こっている事は確かなようだ。 「あ、ちょっと待って! 取材を」 インタビュアーの制止が届く。 「ノーコメント!」 振り切るような藤間の声。 慌ただしいドアの開け閉めで廊下に出る。 「このまま飛行場に向かいます。一つ早い便に変更しました」 「おい、一体」 「森永ミサとの件がスクープされました」 「!」 なんだって・・・? 「素っ破抜いたのは今朝発売の週刊フェイス」 ・・・しまった。 「リージェントの部屋に入る写真が掲載されてます。それと、前にスタジオで話した時の写真が」 ――――ケリ。 『夜にまた電話する。人と会う約束があるから何時になるかは分からない』 昨夜そう伝えたっきり、今までメールすら送っていない状態。 「もう、どのチャンネルのワイドショーもこの話題でもちきりです」 彼女は、昨夜電話をしなかった俺が、こんな形で"どこに居た"のかを知らされる。 この事が、いったいどういう意味を持って彼女に伝わるのか、明らか過ぎて眩暈がしそうだった。 |