小説:ColorChange


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愛に形はありますか?
《 Acting.by ケリ 》

 小さい頃から、遠足当日より前準備に気合いが入るタイプ。

 昨日は岩盤浴でリフレッシュして、今朝はラジオ体操の後、お風呂場で時間をかけて全身オイルパック。
 11時に予約していたサロンへ行ってネイルチップの交換。

 なんだか、心の中が暖かいのが分かる。
 こんなに穏やかに幸せを噛み締めている自分がいる。

 今日、4日振りに彼に会う。

 その時は偶然に通りかかったロケ現場の近くで散歩をした。
 手を繋ぐ事も出来なかったけど、

 『昨日は何してた?』

 『今度はドライブにしよう。ずっと手を繋いでいられるし、キスだってできる』

 共有できる過去の話と、これから一緒に過ごす未来の話を優しく綴る彼の優しさに、胸がいっぱいになる時間だった。
 雑踏の中、ビルの天辺を見上げれば、空中を飾る巨大なパネルの中に微笑む"彼"にはいつだって会えるけれど、やっぱり、指先が繋がらないのとでは全然違う。

 約束は14時。
 サロンを出て、すべての準備が整った時点でまだ2時間近くある。
 張り切り過ぎたと反省しつつ、せっかく街に出てきたんだもの。
 友人達に贈るクリスマスプレゼントを選ぼう・・・そう思い立って、雑貨屋さんに足を踏み入れた時、

 『悪い、14時には間に合わないかもしれない・・・』

 アキラから、ため息交じりのそんな連絡が入ってきた。

 「え・・・?」

 携帯が一気に重くなる。
 店内のクリスマスソングが気になって、私は踵を返すように外に出た。
 電話が鳴った事で遠慮して離れていたトーマが慌てて駆け寄ってくる。

 "大丈夫"

 声に出さずに告げると、トーマは頷いて近くに控えてくれた。

 「・・・遅くなるの?」

 『そうだな、このままだと、会う時間が減るだけになるかも』

 「・・・」

 アキラは、余程の事が無い限り、デートの予定をキャンセルしたりしない。
 今日は久しぶりだし、私に気を遣っているのかもしれないから・・・
 私から、言った方がいいのかしら――――。



 「あの・・・私今日は―――」

 『だから』

 私の声が小さかったからか、アキラは言葉を続けた。

 『局の方に来ないか?』

 「え・・・?」

 『共演者のスケジュールの関係で控室に待機状態が続いているんだ。ある程度経てばごり押しで順番を繰り上げさせるから、どうにか14時半には局を出られる。それまで一緒ならタイムロスは無いだろ?』

 「・・・でも」

 『俺の周りのスタッフはあんたの事知ってるから控室に入ってしまえば問題ない。藤間に入館パス用意させるから、すぐ来れるか?』

 「あの」

 『来るだろ?』

 「・・・」

 『ケリ?』

 「はい」

 呼び掛けるようなアキラのひと押しに、思わず返事をしてしまった。
 通話を終えて、トーマを見る。

 「どうかしましたか?」

 「・・・TV局に行く事になっっちゃった」

 「それは・・・」

 多分、

 "困りましたね"と。

 そう言いかけたんだと思うトーマは、私の顔色を読むようにしてニュアンスを変えてきた。

 「―――困ってるんですか?」

 「どうかしら―――」

 曖昧に応えた私に、トーマは珍しく諭すような顔を向けてきた。

 「ケリ。もう決心しているなら、早い方がいいですよ。もう3年経っていますし、よほどの地位がある者でないとあなたの事は知らないでしょうから今日で露見するとは思いませんが、天城氏に伝えるタイミングなのかも知れません」

 「そうね・・・」


 (分かっては、いるのよ)

 言葉に出来ないこの複雑な気持ち。
 ケヴィンの事を、どう伝えようかと悩んできた。
 アキラが業界にいる限り、いつかは知れる事。
 言いだす切っ掛けを待ちながら、言わずに済めばいいとも思っている。

 今の幸せに、縋りついている卑怯な私。

 元夫が同じ俳優だと知った時、私の過去であるケヴィンの存在がアキラの心理にどんな影響を与えるのか、

 想像すら出来なかった―――。








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