【―――そんなにキリキリしてたらシワが増えちゃうわよ? 伸ばす私の身にもなってよね】 ドアの向こうにいるはずの人物に私がそう言うと、場の空気が凍りつくのが分かった。 私にとっては新顔のボディガード2人が、私の視界を遮ってくる。 「ケリ」 心配そうに私を呼んだアキラ。 それとほとんど同時に、ステファン・ホークが顔をあげた。 【・・・ケリ?】 ダークブラウンの途方に暮れた瞳が、次第に涙を溢れさせて光る。 【ケリ、さん? ああ・・・奇跡だ! どうしてここに!? ここはロスだった? 違う、日本だよね。でも幻じゃないよね? 本物だよね?】 飛びつくように私の両手を握りしめ、一つの単語ごとに力が込められる。 【・・・痛いわ。ステファン。相変わらずの感激屋ね】 彼と話す時は、どうしても苦笑するのが私の常。 【ああもう! うちのプリンセスが天岩戸になって1時間ですよ。本当に本当に夢じゃないですよね!?】 大袈裟とも見えるステファンの激しい握手と、 【あ、ステファン、彼女を呼んでくれればそれで、】 いいから、と言いたかった私の言葉は遮られ、 【ミッシェルさ〜ん、ケリさんですよ。ロサ・ファンタジアよりも効果絶大! 世の女性が絶賛するゴッド・フィンガーのマージュ・ケリがいますよ〜】 まるで歌を歌うようして紡がれる、想像してた通りの賛辞。 「・・・ゴッド・フィンガー?」 アキラが言葉の意味を反芻しようとする。 (恥ずかしい・・・) ステファンが良い子なのは分かるんだけど、調子良いこの賛辞癖。 30代の彼を「良い子」と呼んでしまうほどの存在感しかないのは、決して私の屈折した表現のせいじゃなくて。 彼のこの、生まれ持ってきたノリだけは、出会った時からどうしても素直に受け入れられない。 目当ての女の子を口説く時も、最後はこんな感じで軽口にするものだから結果的に信用されなくていつも振られてしまう。 そろそろ振られる要因を教えてあげたら? って、"彼女"にも再三忠告しているけれど、 『あら。いいのよ。彼女なんかできたらこの私が2番目になってしまうでしょう? そんな事は許されないわ』 たぶんそれは全くの本音で、彼に彼女を作ってあげるつもりは皆無なんだと思う。 |