――――俺に気持ちがないなんて冗談だろ? 複雑な表情のアキラは、でも多分、怒りが少し勝っているのだと思う。 「"香織"」 そう呼ばれた事で、私は自分の体にスイッチが入る音を聴いた。 アキラは、私を抱く時しかその名前で呼ばない。 他の人に聞かれて、模倣されるのを嫌がっている。 愛撫される時にしか呼ばれないから、まるで習慣のように、私の体は反応した。 こんなにも、彼に染められてしまっている私という女―――。 「・・・ん」 口の中に入れられたアキラの指。 最初は冷たかった彼の指が同じ温度に溶ける頃には、耳を舐められ、首筋にキスを繰り返され、私の息はすっかり上がっていた。 さっきまで悲しくて泣いていたのに、そんな感情が置き去りにされている。 "悪かった" アキラはそう言ったけど、私に陰を覚えさせたあの態度が、棘のように刺さっている。 (それなのに、流されるまま行為を受け入れてしまっても、いいの――――?) 強い懸念はあるけれど、でも、アキラを求めたいと熱を孕む自分の身体が抑えきれない。 アキラが挿(はい)ってくる瞬間が思い出されて、あの幸せを求める心を抑えきれない・・・。 どうすればいいのか、分からなかった。 「俺の気持ちを疑った罰――――」 え――――? 私に覆いかぶさるように身を重ねてきて、ドア近くにアキラの手が伸びたかと思うと、ガタンとシートが倒された。 サイドブレーキを邪魔にしながらも、器用に身体を寄せてきているアキラが私を見下ろしている。 ぱらぱらと下にいる私に向かって流れてくる漆黒の髪が綺麗で、色香を放つ眼差しが妖艶に光っている。 さっきまで私の口内を犯していた指を、ぺろりと舐めた。 唾液で濡れた唇と、赤い舌を見せられて胸が高鳴る。 躰の中心が疼いてくる――――。 でも・・・、 「・・・待って、アキラ、車(ここ)で?」 コートのボタンを外され、服の中に手が入ってくる。 「アキラ・・・!?」 「誰も見てない」 フロントガラスの向こうは壁。 左右と後ろのガラスは法定を限りなく無視したフルスモーク。 それでも、 「待って、あッ」 ブラをずらしてアキラの指が胸の先を弾く。 もう片方の手は、私の指をさやさやと撫でて、アキラに教えられたその快感で、脳のどこかでチリチリと音を立て始める。 「アキ、」 何かを言おうとするとキスを繰り返され、翻弄される。 泣きそうになる程に狂おしい熱が、私の口内を襲ってくる。 ふと、―――キスが止んだ。 「万が一、誰かにあんたを見られるのは癪だな」 息を弾ませてうっすらと目を開けた私の虚ろな視界で、アキラがコートを脱ぐのが見えて、それはふわりと私に掛けられた。 そして再開されたキス。 いつの間にか、アキラの指は私の中心にたどり着いていた。 肘を使って、抵抗する私の足を開かせ、その間に自身の片脚を差し込み、抑え込む。 「ちょ、ん、アキ」 左手では私の両手を頭上に掴んで、痛いくらいに私をシートに固定した。 唇が離れた隙に、懇願する。 「お願い、アキラ、こんな所で・・・」 「車でシた事は?」 「え・・・?」 「カーセックスは初めて?」 "カーセックス" その単語に、頬が一気に火照るのがわかる。 「おねが、やめ」 「香織」 耳を舐めながら私の名を呼ぶアキラ。 舌先で細く、舌の腹で丹念に、私の首筋の肌を探っていく。 その一方で、私の中に入った指がポイントを激しく刺激してくる。 「あっ、」 手で押さえる事のできない口から、恥ずかしいくらいの卑猥な声が漏れる。 そんな自分の声を聴いて、体中に羞恥心が走る。 唇を頑なに閉じて声を抑えようとすると、アキラのキスが落ちてきて、強引に割られ、声を求められる。 「ん、ああッ」 コートで隠された場所から、アキラによって湧いた泉の音がして、 「あ、あ、・・・ッ」 容赦なく攻められて仰け反るように腰が浮くと、アキラの足が更に強く絡まってきてそれを制する。 迫りくるものから、逃げられなくする。 脳の端から、大きな波が来るのが分かった。 「――――ッ、あぁ、あっ、」 痙攣するような私の体の反応に、アキラの指が圧力を増した。 快感は、脳の中の別世界を照らす光として現れて、何度も光爆ぜ、脳の果てで余韻を打った。 アキラが私を呼ぶ声がする――――。 生きモノのように蠢くアキラの指は、それから何度も、私を意識を失う直前の高みまで連れ去って行った。 |