俺の手によって、ケリの肌がピンク色に変色していく・・・。 上気した頬。 潤む瞳。 切なげな声――――。 俺のキスに濡れたその唇と、俺に応えるケリの中。 全部、全部、俺の記憶だけに塗りかえられたらいいのに―――― 「ああっ、・・・ぅ」 波打つようなケリの身体の震え。 何度目かの到達に、手の動きを止める。 これ以上、乱れたケリの姿態には俺の理性の方がもちそうになかった。 「・・・アキラ」 まだ虚ろな光を宿したケリの瞳が、縋るように俺に向けられる。 束縛から逃れたケリの両手が、俺を求めるように伸ばされてきた。 左肩を中心にそれをただ受け止め、ケリの頬にキスをして、 「ケリ」 俺は右手をコートの中から抜き、わざと見せつけるようにして、本人の目の前に出した。 濡れた俺の指に、ケリが羞恥に顔を真っ赤にして震える。 俺がそれを舐めて見せると、ケリが耐えかねたように目を逸らした。 「あんたは・・・啼くほど甘くなる」 「ア、キラ」 泣きそうな顔で、俺を睨みつける。 「そういう顔も、可愛くて逆にソソる」 「!」 更に顔を赤くして、顔が俺とは反対を向いた。 「こっち向いて」 「・・・」 「ケリ」 その背中に指先を掠めさせれば、 「や・・・」 まだ余韻があるケリの体は面白いくらいにピクリと反応して俺の方に戻ってきた。 透かさず、チュと軽いキスをすると、ケリが目を瞬かせる。 「気持ちよかった?」 俺の問いに、しばらくの無言の後、微かに目を伏せる。 それが応え。 「・・・あなたは、いいの?」 その質問に、俺は長い息を吐く。 「これは俺の罰」 「――――え?」 「あんたを傷つけた俺への罰」 困惑の表情が俺を見返している。 俺はケリを抱く腕に力を込めた。 両腕でしっかり、きつく抱く事で確かな存在を感じられる。 それに応えるように、俺に寄りかかって身を預けてくるケリが、愛しくて仕方ない。 「今まで、現実味がなかったんだ」 10年以上、1人に男に抱かれていたという事実。 それを嫌悪した事もあったけれど、それは俺の一時の感情の問題だけで、ケリとの時間を重ねる度に少しずつ消化してうまくやり過ごせたと思う。 だが、元夫がケヴィン・モーリスだと知った途端、ケリを抱いていた男の姿がビジョンとして目の前に現れた。 「現実味?」 「あんたの元旦那の存在」 「え?」 戸惑いのケリの表情。 「顔も知らない奴だから、今までは余裕があったんだ。さっき、ミッシェルがそれを口にした時、俺の頭の中は、あいつに乱されるあんたの事でいっぱいになった」 「・・・え?」 「あの時、あんたを見たら何をするか分からないくらい、強烈な嫉妬に襲われてた。・・・だから、目を見れなかったんだ」 女の事で、あんな激昂が自分の中にあるとは驚きだった。 「――――"最悪"」 ポツリと呟いたケリに、 「え?」 今度は俺が眉を顰める。 「なに?」 聞き返すと、ケリが乞うように俺を見上げた。 「それでさっき、"最悪"って言ったの?」 「――――口に、出してた?」 「あの言葉を聞いて、私、あなたが離れていくと思った・・・」 「・・・悪い」 ため息をつく。 「こんなに、感情の制御が出来ないのは、初めてだ」 ケリの髪をそっと撫でる。 大の男が、泣きそうなほどに誰かを愛せると知った相手は、 「あんただけだ。こんなに俺を、夢中にさせるのは」 なぜ、彼女? そんなのは愚問。 理屈じゃない。理由をつける必要は無い。 目の前に彼女が居て、見るだけで愛情が湧いてくる。 それだけで、もう全ての未来(シナリオ)は決まっている。 「――――愛してる、香織」 ケリの瞳から、涙がぽろぽろと落ちてくる。 泣きながら浮かべている微笑みがあまりにも可愛くて、また胸が切なくなる。 「わたしも、――――私も愛してる、アキラ」 「ああ」 お互いが、力の限り抱きしめ合って体が束縛されるほど、同じく、心も抱かれているように錯覚する。 不思議と、セックスで得られる物理的な一体感以上に、2人が本当に1つに溶け合えている気がした―――。 |