ベッドヘッドの電話に受話器を戻して、私は深いため息をつく。 35歳にもなって、セックスで足腰が立たないという理由で誰かに助けを求めなきゃいけないなんて、もう本当に恥ずかしすぎる。 「それにしても・・・」 アキラがトーマと一緒に居たなんて、かなり驚いた。 テーブルの上にアキラの財布と携帯が置かれたままだったから、きっとシャワーだと思っていた。 ――――何を話していたのかしら・・・? 「ケリ?」 ドアが開いて、アキラが入ってきた。 「アキラ」 一直線にベッドに近づいて、シーツに包まる私の傍に座りこむ。 頬を撫でるようにして、 「きつかったか?」 妖艶な顔で尋ねてきた。 その藍色の瞳が細くなり、さっきまで私を翻弄していた唇が微かに笑みを象っている。 「―――意地悪ね」 少し拗ねた口調で告げると、アキラは、今度ははっきりと笑った。 「時間があったら、もっとシたい」 「え!?」 軽い衝撃が私を襲う。 きっと顔に出ていたのだと思う。 「なんだ? 俺に抱かれるのが不服なのか?」 親指で私の唇をなぞってきて、私を攻める時のような顔をした。 シャワーを浴びたのは予想通りのようだった。 まだ湿気を持った漆黒の髪が、彼のフェロモンに匂いをつけている。 その色香にどれだけ私の鼓動が高鳴るのか、彼はもしかすると、本当は判っていないのかもしれない。 こんなに私を夢中にさせて、そしてそれ以上の欲求を向けてくれる人。 「――――そう、じゃなくて」 それを告げるのには、少しだけ勇気が要った。 「アキラって、私が聞いていた日本人の男性とは程遠くて」 会う度に、かなりの確率で身体を重ねている。 多分、普通のカップルよりも多いと思う。 今の私の状況を分析すると、受ける方も大変だけど、こう回数が多いと、どちらかというと男の人の方が体力的にきついと思うんだけど・・・ アキラって、 「ウマいとか、そういう以前に、んぅ」 年齢の割に、"タフよね?" という言葉は最後まで綴る事ができず、アキラの口に呑み込まれた。 「・・・ん、あ、・・・きら」 何度も何度も、角度を変えて深く交わる唇。 差しこまれた舌の温かさが、私の口内を刺激する。 微かに、コーヒーの味がした。 私も熱いの飲みたいな・・・と考えているうちに、唇が離れ、首筋へと下がって行く。 「え、ちょ、まって、アキラ、もう」 慌てて拒否を示してみたけれど、キスの音が繰り返されるたびに、すっかり馴らされた私の身体は従順に潤って火照ってゆく。 次第に眼を閉じて受け入れている私に、ちょっと自己嫌悪が芽生えてきた。 こんなにアキラとのセックスに溺れている自分に対し、羞恥心も湧き出てくる。 「―――――俺の、独占欲なんだ」 え・・・? 「器の問題、だな・・・」 体中にキスの跡をつけながら、アキラはそれを囁いた。 「過去のあんたを、塗り替える程に、抱き尽くした思える日が来れば、ちょっとは、落ち着くと思う」 アキラ・・・? 「唇も、指先も、身体の隅々、髪の毛一本まで、全部俺のものだ」 激しく、一直線な熱情に、身体の中心から熱が湧きでる。 この男性(ひと)に応えたいと女が目覚める。 「ん、あっ、・・・ん」 「隙間なく、俺の色に染めてやる」 「ア、キ」 「キスの仕方も、セックスも、薔薇色に染まるこの躰も」 アキラの舌が知り尽くした敏感な部分を容赦なく攻めてくる。 その間にも全身を刺激する指先の動きに、私の身体は痙攣するように反応する。 「爪の先の色から、生活のリズムまで」 「ん、・・・ああッ」 もう、駄目、 「その声も」 耳に吹きかかるその甘く低い吐息に、 「全部、俺のものにする」 挿入(はい)ってもいないのに、私の身体はラストスパートのような閃光の快感に襲われていく。 「忘れるなよ、香織」 耳たぶを噛まれて、ひくつくように達したと同時に、アキラが私の中に強引に入ってきた。 次第に速度が上がる肌がぶつかり合う音。 耳に響く口内の水音。 「あ、や、だめ」 意識が、また飛ばされる―――――。 「俺があんたの事で諦めるのは、過去の事だけだ――――」 そう言ったアキラの声が、渦巻く快感の遠くの方でリフレインしていた。 |