「―――――アキラ!!」 私が、泣きそうになるのを必死で堪えながら絞り出したその声は、絡んでくるケヴィンの"意図"を断ち切ろうとしたのも相まって、まるで悲鳴のようなものだったと思う。 これまで生きてきて、こんなに誰かの事を求めて大声を出すのは、初めてで、 ――――だから、 私以外の女の人に触れていたあなたが、私の声に気付いた途端、愛しむように振り向いてくれた事が本当に本当に、嬉しくて、勇気を出した私は、とても救われた気がした――――。 そんな喜びも一瞬。 アキラが、激しい怒りを隠しもせずに真っすぐに私の元へ向かってくる。 どうして? 不安に押しつぶされそうになりながら、ふと、両肩に感じたケヴィンの温もりを思い出して、 ああ、ケヴィンに嫉妬しているのだと、 「アキラ・・・」 心の奥から悦びが走った。 「ケリ」 いつもは甘い声が、優しい瞳が、アキラの大きな手が、怒りに任せて私の名を呼び、射て、私の手首を手加減なしに掴まえる。 「――――何度言えばわかるんだ?」 呆れた様子で言い聞かせるように放ち、彼は私を強引に腕の中に引きこんだ。 「俺以外の男に触らせるな」 肩を潰されそうなほどの束縛。 あっという間に私を包んだシトラスの香りが、慣れそうになっていたライアンやケヴィンの香りを打ち消していく。 迷いそうになっていた自分の、立っている位置を思い出した。 私の居るべき場所。 アキラに教えてもらった私の居場所。 アキラの傍が、――――私という存在の立つ場所。 「アキラ・・・」 その胸に、甘えるように頬を強く押しあてると、アキラから深いため息が漏れた。 「そのドレスは? まさかケヴィンに選んでもらったんじゃないだろうな?」 「あの・・・これはライアンが」 「誰?」 「ケヴィンのエージェントで」 すぐ後ろに居るはずのライアンを振り返ろうとして、 「ケリ」 顔を両手で押さえられた。 「誰でも同じだ。部屋を取って着替えろ。俺が店で選び直す」 「―――はい、ふふ」 思わず、幸せで笑いがこみあげてくる。 泣き笑いで肩を震わせる私の額に、アキラが不機嫌そうにキスをした。 「というより仕事じゃないならこのまま帰らないか?」 「・・・え?」 私は、一瞬戸惑った。 「アキラ、・・・仕事じゃなかったの?」 「多分、プライベート。なぜがケヴィンに招待された。まあ、」 アキラが、その藍色の瞳をケヴィンに向ける。 「何となく、意図がわかった気がするけどね」 「え―――?」 無言で視線をぶつけ合うケヴィンとアキラ。 しばらくすると、アキラが先に目を逸らし、そのまま自分が来た方向に目線を遣った。 つられて顔を向けると、さっきまでアキラと一緒にいた金髪の女性が直ぐ近くまで来ていることに気付き、その姿を目にした途端、胸がチクリと痛む。 さっきまで、この女性と、――――、 【・・・アキラ?】 直ぐ近くまで来た彼女の、色っぽい声がアキラを呼んだ。 【エリザベス、悪い、今は―――】 応えるアキラ。 今は―――? 今だから駄目なの? じゃあ、いつならいいの? 明日なら、彼女と話すの? 私が居ない時に――――――? 呑み込んだ感情が、痛みとなって喉にかかる。 【分かってるわ。でも彼女に説明したほうがいいのなら――――】 赤いネイルの指先が、アキラの腕に触れた途端、 「・・・いや」 我慢が出来ずに、私は、声を震わせながらも、口にしてしまった。 「お願い、・・・アキラ」 こんなにどす黒い、私の心。 「仕事なら・・・我慢する」 こんな事、ケヴィンには決して言えなかった。 「プライベートなら、今すぐに」 捨てられないように、嫌われないように、脅えて、機嫌を窺うように愛してきたあの日々とは、違う――――。 「あなたに触れないように・・・」 アキラなら・・・、 「これ以上あなたに触らないように」 きっとアキラなら――――、 「彼女に言って・・・」 嗚咽と一緒に、狡くて、醜いその感情を隠さずに吐露して、 まるで丸裸にされたような情けないくらいの"羞恥心"が、指先までも痺れさせて駆け巡る。 こんな、私でも、、 きっとアキラなら――――、 ――――・・・、 |