シンは死んだ。 そう伝えた時の、ハジメの顔が僕の心を揺さぶった。 何やってんだ? 焦げ茶の瞳が、鋭く僕を責めていた。 僕に罪悪感を思い出させるとするなら、ハジメだけかもしれないとは考えた事はあった。 ただ純粋に、シンを愛している事を胸に秘めていたあの頃――――。 ハジメに抱かれた時は、僕はまだ、1人の男を愛しただけの、哀れなくらい不器用な男だった。 コンコン。 開けっぱなしだった続き部屋のドアが、遠慮がちに小さくノックされる。 顔を上げると、そこには薄いピンク色のパジャマを着たソフィが立っていた。 艶やかな黒髪が肩を過ぎた所で巻かれている。 9歳だというのに、テコで髪をセットする毎朝の奮闘ぶりには、女の子のパワーを教えられる。 眠そうな薄茶の目が、それでも必死に僕を捉えていた。 【やあ、ソフィ】 【パパ・・・】 【おいで】 僕が許可を出すと、小さな足が室内の絨毯を踏む。 【ママに、会えた――――?】 縋るような、消え入りそうなか細い声が、それでも必死に尋ねてきた。 【それが聞きたくて起きていたのかい? 悪い子だ】 僕の腕に抱きかかえられ、ソフィは俯いた。 ケリの髪質に良く似た、その柔らかな黒髪を撫でつける。 【眠れないのか?】 【・・・】 愛らしい桃色の唇を噛みしめ、ソフィは涙を堪えていた。 【ソフィ――――】 ぷっくりとした頬にキスをした。 【ママに会いたいかい?】 僕が尋ねると、ソフィは首を振った。 反動で、涙がぽろりと落ちる。 【・・・ママは、ソフィの事、嫌いだもの。きっと・・・会ってくれない】 絞り出すような幼い声。 【ソフィ、そうじゃないよ】 僕は力を込めてソフィの身体を抱きしめた。 【ママは、少し混乱しているだけなんだ。パパのせいでね。ソフィが嫌われているわけじゃないんだよ】 【・・・っ】 今度は、大粒の涙がぽろぽろと零れる。 【うう、・・・ふえ】 【ソフィ・・・】 小さな胸の痛みを思うと、さすがの僕の胸も共感して痛みを思う。 背中をトントンと叩いて暫くすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。 1つの命の重さが、ずっしりと僕に託されている。 【大丈夫】 誰も聞いていないのに、僕は誓いのように口にした。 【パパとママが仲直りすれば、・・・きっと、元通りだよ】 祈りにも似た、願い。 そうだ。 狂わせた歯車を、僕の思う通りに―――――。 (ケリ―――) ソフィの黒髪にキスをしながら、僕はゆっくりと目を閉じる。 ―――――― ―――― その夜は、久しぶりに夢を見た。 そこに住むアレキサンドライトは、出会った頃の、あの暖かな笑顔のままだった――――。 |