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これで終わりでいいですか?
《 Acting.by アキラ 》



 件名 15:40発
 本文 チケットが取れました。昼過ぎには成田に向かいます。


 ケリからそんなメールを受信していたのは、彼女をマンションに送り届けてからおよそ1時間が経った頃で、撮影スタジオで映画の撮影中だった俺がそれを確認したのは、それから更に1時間経った後。

 「アキラさん」

 どうぞ、と。
 藤間が2本の缶コーヒーを差し出してくる。
 今日はストレートの方を受け取った。

 昨夜は、自宅マンションで時間を気にせずじっくりとケリを堪能出来た事で機嫌は上々。
 その後は久しぶりに充実した深い睡眠を貪った。
 おかげで今朝の体調は万全。
 自分のテリトリー内に入れた恋人はケリが初めてで、仕入れたケリの過去の情報の複雑さを差し引きしても、精神的にかなり満たされた朝だった。

 それなのに――――――、


 『今日発って、帰国は早くてどれくらいだ?』

 まるで駄々を隠すように低くそう尋ねた俺に、

 『4〜5日・・・、事態の経過次第では、もしかすると本当に年明けになるかも・・・』

 言い辛そうに、言葉を尻すぼみにさせながら応えたケリ。
 内心激しく舌を打った。
 現実的に、俺がロスにおしかける為の時間の調整は難しいだろうから、

 『帰国したら監禁決定だな』

 そう呟いた俺に向かって、恐々と上目をしていたケリの顔を思い出す。
 俺に向けるその女の顔と、携帯の向こうにオーダーしていた経営者としての顔。

 知らない顔が、きっとまだお互いにあるんだろう。

 「・・・ケリ」


 敢えて選んだ苦いコーヒーが、舌と脳を刺激する。
 昨夜、ホテルで遭遇した"あの事"を思い出すと、缶を握る手に思わず力が入った。


 知らない顔。

 知らない・・・事。


 昨夜、

 俺は彼女が知らない事実を、偶然に知り得た。




 ――――――――――――――
 ―――――――――――


 ―――――キィィィィン、シャキ



 キィィィィン、シャキ

 この張りつめた空気を振動させて、繰り返されるZippoの悲鳴。


 【――――シンはどうした?】

 【シンは、・・・ケリを庇って、死んだよ】

 【死ん、だ・・・?】

 区切られた遠一の言葉に、その動揺が窺える。

 【もうすぐ10年・・・かな? ライアン】

 ケヴィンに話を振られ、ライアンが応える。

 【ああ。10年前のブラッディ・バレンタイン。当時はかなりマスコミに騒がれたよ。なんてったって、ケヴィン・モーリスの妻が2発の銃弾をうけ重体。彼女を護ったボディガードは死亡】


 ドクン、俺の鼓動が廊下に響いた気がした。


 10年前

 ケリが?

 撃たれた・・・?



 "シン"

 パーティ会場でその名前が出た時、俺の腕の中に居たケリの体が硬直したのが解った。

 自分を守って死んでしまった人の名前だから、だった・・・のか・・・?




 【――――おい、そこに誰かいるのか!?】


 声が上げられ、俺はハッとした。


 遠一・・・。



 数秒おいて、俺は彼らの前に姿を出した。

 『アキラ・・・』


 俺を出迎えたのは、困惑したライアンの顔と、俺を見据えて次第に無表情になったケヴィン。
 そして、タイミング的に、盗み聞き犯が俺だと予想をしていたらしい遠一は、観念したように息をついた。


 【いつから聞いてた?】

 4人の共通語であろう英語で確認してくる遠一。

 【・・・おおよそ、最初からだと思う】

 【そうか。じゃあ、まあ、隠す事もねぇな】

 弄んでいたZippoをコートのポケットにしまい、遠一は腕組みをして壁に体を預けた。

 【ケヴィンとは、俺が大学卒業する年にちょっと縁があってな。それで、知ってた】

 それきり、場に無言が訪れる。



 大学卒業――――って事は、16年前?


 縁があって・・・。

 さっきのやり取りで感じた空気。
 遠一がゲイなのは昔から知っている。
 そして、ケヴィンも"そう"であることを、俺はトーマから聞いて知っていた。

 とすれば、自ずと想像できる答。


 【――――そうか】

 気遣ってそう返して、次のアクションを待つつもりだったのに、

 【遠一・・・】

 やっぱり俺は、ケリの事になると、冷静さを欠いてしまう。

 16年前、それは、ケリが、ケヴィンに出会った頃だ。
 ケリの事を、その時に話に聞いたというだけなら、別に気にするような事じゃないと思う。

 けれど俺の第六感に、さっきのパーティ会場での、俺がパンドラの箱だと感じたケヴィンのケリを見つめる目線の先や、ケリという存在に対して、まるで禁忌のように絡んでくるシンという名前が、


 【・・・ケリと、そのシンって奴は、何かあるのか?】


 命を賭して、ケリを護ったシンという男の存在が、なぜか心に引っかってくる。

 俺の問いに、遠一はケヴィンを見た。
 つられた俺の目の端に、俯くライアンの姿がある。

 ケヴィンは、クッと笑った。
 スクリーンの中でも、作り出している表の顔でも見た事が無い表情だった。


 嘲笑、に近い。

 役柄でもこんな非道な空気は伝わってこなかった。

 【何もなかったよ】

 セットから崩れて落ちてきた、睫にかかる淡い金色の一房を煩そうに指で避けて、ケヴィンは唇の端をあげた。

 黄金色に燃える瞳が、真っすぐに俺を射ぬいてくる。


 「・・・」

 動けない。

 この眼力こそが、ケヴィン・モーリスの真骨頂。


 【何もなかった――――――。厳密にいえば、】


 少し細められる目。


 【厳密にいえば、―――――出会う前に、僕が2人を切り裂いた】


 ク・・・、と思わず俺の喉が鳴る。


 ケヴィンは今、演技をしている。
 同じ俳優だから解る。


 悪役になろうと、全身で俺を挑発している。



 恐らくは、同じくそれに気付いただろうライアンが、

 【ケヴィン、やめろ】

 難しい顔で制止をいれた。
 それでも、ケヴィンは止まらない。

 【天城アキラ、僕はね、これまでの人生において、本気で愛したのはたった1人だけだったよ】

 ・・・・

 【初めて会った時から、決して叶うはずがない恋だと知りながらも、ずっとずっと愛していた。それだけで良かった。想っているだけで幸せだった。――――ケリが現れるまでは】


 ケリが現れるまで・・・?


 ・・・脳裏を、がさりと撫でられた気がした。

 ケヴィンから目が離せない俺の視界の横で、遠一が俯いたのが見てとれた。


 【ケリに惹かれていく"彼"を見ている内に、どうしようもなく燻って、自分の恋心が哀れになってね】


 初めて訪れたケリのマンションで、眠りながら泣き続けていた彼女の姿が思い返される。


 【でも、ハジメに抱かれて気付いたよ】


 ケヴィンのその台詞には、

 「は?」

 と、遠一が顔を上げた。


 【望みのない恋に、希望を持たせるとしたら、もうその方法しかなかった】

 【ケヴィン、やめなさい】

 ライアンの低い声。
 その彼に肩を掴まれた瞬間、ケヴィンは激しくそれを払った。

 【ライアン、君も同罪なんだから、僕を止める資格は無いはずだよ】

 【ケヴィン・・・】

 【10年前、君は僕の真意に気付いたはずなのに、それでも、僕という底無しの沼の中から彼女を救い出す事はしなかったんだからね】

 苦虫を噛む表情で、ライアンが白髪の髪を撫でつける。

 【・・・後悔、しているんだ。だから】

 【だから、今夜ケリを、僕からガードして護ろうとしたんだろう?】


 ケヴィンからの愛を求めて、夢の中までも泣いていたというケリ。


 『私が夢の中で泣くのは、夫の愛が欲しかったから・・・。現実では泣いても叶わないと分かっていながら、でも現実から心を守るために、愛されない私は可哀そう・・・そんな悲劇的な自分に依存して、それで自分を保っているんだって――――。私、愚かでしょう・・・?』


 泣く自分に依存するほどに、"愛される事"を渇望していた彼女。



 【ケリは、僕とシンを結ぶ媒体だった】


 ケリ・・・。


 【ケリが僕を愛する毎に、シンの想いが強く強く、彼女を通して僕に入ってくる気がした。例えそれが錯覚で、直接僕に向けられるものが、嫉妬や憎しみといった、負の感情だったのだとしても―――――】


 ケリ・・・。


 【まあ、1年も過ぎれば僕もバカバカしさに気付いて、シンの真似をするのはやめたけれどね】


 【・・・シンの真似?】

 ケヴィンのフレーズをそのまま返した俺に、ケヴィンは冷笑する。

 【彼女が愛したのは、"僕"じゃなくて、"僕が演じたシン・ホン"だから】

 大した意味も無いように、平然と告げたケヴィン。

 『ケヴィン、お前・・・、まさか』

 遠一の日本語の呟きが、遠く耳に入ってくる。


 【本来の僕、・・・彼女にとっては豹変したはずの僕に疑問を持ちながらも、ケリは何年経っても縋るように必死に僕についてきた】

 思い出すように笑ったケヴィンは、今、自分が何を言っているのか、本当に解っているのか?


 【あれほど無償で愛を与えられる人も珍しいよね。日本の女性はみんなこうなのかと驚いたよ】


 俺の怒りが、


 【女を抱くなんて、シンと僅かでもリンクしたいという欲望がなければ、決してできなかっただろうけど、まあ、長年一緒にいれば情も湧くしね】


 彼女の悲しみが、


 【時々なら抱いてあげたんだけど】


 "拒否"もなく、"もっと"も無く、ただ従順に受け入れるだけの、

 "他の男の躾が生き届いている躰"と俺が遠一に称した、器の小さい俺の嫉妬心を煽ぐばかりだった最初の頃のケリ。


 【色んな女性を抱いてきた君が、満足するとは思えない・・・かな?】


 【ケヴィン!!】

 『アキラッ!』


 ライアンの怒鳴り声と、遠一の叫び声が重なった。


 踊らされるように、
 恐らくはケヴィンの思惑通りに、

 俺は、まるで他人事のように美しく笑みを浮かべるケヴィンのその胸倉を、捩じるようにして掴み上げていた。

 【貴様ッ、】

 体中から、怒りが迸るのを止められない。


 【それ以上、彼女の事を語るのは許さない!】

 【くく、凄いスクープだ。隠しカメラでも仕込んでおけばよかったよ】

 【なんだと!?】

 【日本の俳優、天城アキラ、嫉妬にかられて恋人の元夫であるケヴィン・モーリスを恫喝―――――、なんてね】

 【ケヴィンッ!】


 ダンッ、と、俺は力任せに壁にケヴィンを押しつけた。
 その背中への衝撃に、僅かに痛む様子を頬の辺りに見せたケヴィンは、それでもすぐに、表情を元に戻す。

 【でも、証拠なんかなくても、僕がそれを語れば、これは事件として世界に報じられるよ】

 【!?】

 【"Stella"との契約がある今、それがどれほどの破壊力か、わかるよね? ―――――アキラ。賢く考えてみて。他に、もっと良い女がたくさんいるだろう?】


 決断を迫ってくるヘーゼルの瞳。

 感じる違和感―――――。


 この演技は、何のため、

 ――――誰のためだ?




 『――――アキラ、離せ』

 遠一が俺の腕を掴む。
 思考を奪われていた俺は、促されるままに力を抜いて、掴み上げていたケヴィンの胸元から手を外した。
 白んでいた指に、血が通ってくるのが分かる。

 ケヴィンが短い息を吐き、乱れた襟元を音を立てながら正していた。

 【しばらくは日本に滞在する予定だから、少しくらいなら返事を待つよ。―――――行こう、ライアン】


 言い捨てるようにして歩き出したケヴィン。

 ライアンが僅かに俺を見て、胸に手を当てた。

 何を伝えたいのか、すぐに思い当たった俺は、頷いて見せる。
 さっきもらったライアンの名刺が俺のポケットにあるはずだった。


 【―――――ああ、そうだ】


 まるでタイミング計ったかのように、ケヴィンが徐に振りむいた。


 【僕はケリに正常位しか教えていないから、君が彼女を後ろから愛せるかどうかは知らないけれど】

 『・・・!』


 ピクリ、と俺の拳が反応した。


 『アキラ』

 諭すような遠一からの呼びかけ。


 『・・・』

 わかってるよ、と背中で応える。


 遠一がいなければ、間違いなく殴りかかっていた。


 【ケリが10年前に受けたその銃痕が、背中に綺麗に2つ残ってるよ】

 【!】

 【君が知らないケリの歴史だ。今度見学してみたら?】


 歩みに靡く淡い金髪。
 冷たく光る、宝石のような黄金の瞳。

 そのどこまでも美しい姿が廊下を曲がって見えなくなっても、俺はしばらく、そこから動く事ができなかった。





 ――――――――――――――
 ――――――――

 ――――

 一晩経って、冷静になった筈の今。
 それでも、何度あのやり取りを思い返しても、ケヴィンの行動が理解できない。

 ケリを蔑んでいるようで、求めているようにも聞こえる。
 俺を邪魔にしながらも、弄び、試しているようにも聞こえる。

 そして、ケリを嘲いながら、懺悔をしているようにも聞こえた。

 違和感と、矛盾。
 恐らくは、昨夜のあれが"すべて"ではない。
 何かもっと、見落としている別のキーワードが、―――――重要なキーワードがあるはずだ。

 それは、なんだ―――――?



 目を閉じて考える。

 セットに向けられる照明の光が明るく瞼の裏に灯っていて、その光に助けられるように、しばらくは集中して思考を整理していた。


 「――――アキラさん」

 不意に、目の前に影が入って光を遮られる。
 俺は呼ばれるまま顔を上げた。
 開いた視界に入って来たのは、今撮影中の映画で妹役をしている女優のカンナだった。

 「・・・どうしたんだ?」

 余裕がない時、意を削いだ女を相手にする事は、かなりの体力を取られる。
 こういう2人きりの時間を作られたら助け船を出すように依頼してあった助監督の姿を、無意識のうちに視界の中に探していた。

 「・・・助監督は、さっき美術さんの打ち合わせに行きましたよ?」

 見透かしたようなカンナの言葉。


 女は、ちょっとした時間であっという間に強かになっていく。
 こいつも、例に漏れなかったって事だ。

 藤間もいないし、やり過ごすしかない、か――――――。

 「何か相談事?」

 「っていうか、あの、今日のイヴは、どう過ごされるのかな〜と」

 「―――――君と一緒だよ」

 「え!?」

 パッと目が見開かれて、表情が明るくなる。

 「映画の宣伝も兼ねて、君もスケジュール詰まってるだろ? 俺もほとんど休み無し。もちろん今夜もね」

 「あ」

 風船がしぼむように落胆していく。
 こういう素直なところを伸ばせば、もっと感性のある良い女優になれるはず。
 確か、ミサと同じ事務所だったはずだ。
 育てるよりも、売る方を優先するのが事務所の方針・・・か。

 「彼女さん、寂しがりません?」

 「彼女?」

 シラを切るべきか、次のリアクションで判断する。

 「あの、ミサさんと事務所の社長が話しているの、聞いちゃったんです。相手の女性のことマスコミに吹きこんで、交換条件で写真集の宣伝枠を広げてもらおうって、そしたらミサさんが、今の彼女さんには相当溺愛中だから、たぶんジョニー企画を敵にしちゃいますよって」


 ミサ―――――。

 そうか。
 彼女もまた、強くなった女の一人。


 「その溺愛中の彼女さんとデートはしないんですか?」

 「――――――彼女、いま海外だから」

 「そう、なんですか?」

 「ああ」

 さて、この状況に求める意図はなんなんだ?
 思惑が読めない事には、対処のしようがない。

 どうしたものか考えながら、無意識に足を組み直した時だった。


 「あたし・・・セフレでもいいです」

 ポツリ、唐突に呟かれたそれに、俺は眉を顰めた。

 「あ?」

 虚を突かれ、素のまま言葉が漏れてしまう。

 「彼女さん、海外なら、溜まったり、してませんか? あたし・・・」


 ―――――ったく。

 内心辟易しながらも、苦笑して見せた。

 「あ〜、君くらいの若い子の同級生とかならそうかもしれないけど、俺はもう38だしね」

 「・・・」


 床に視線を落とすカンナ。


 「・・・です」

 「ん?」

 「あたし、処女です」

 顔を真っ赤にして、そう言った彼女。

 「・・・」

 俺はわざと大きく息を吐いた。

 「――――――で?」


 「・・・え?」


 「だから?」


 一言足す度に、低くなる俺の声。



 「処女だから何? 俺に宣言されても対処に困るな」

 「あの、アキラさんに、もらって欲しくて」

 「は? なんで俺が?」


 テーブルに、わざと缶コーヒーを強めにおいた。
 ビクッと震えるカンナの体。

 「あ、あの・・・」

 今まで見た事もない俺の態度に、明らかに脅えている様子だった。


 「処女を金で買うような男と俺を一緒にするなよ」

 「そんな、違いま」

 「どこが? 今の話のどこが違ってた?」


 流石に周りに聞こえると困るから、どんなにイラついても声を大きくしたりはしない。


 「俺との時間を、処女と交換してって、そういう意味だろ?」

 「あ」

 「悪いけど、ミサが言った通り、今の彼女に夢中でね」

 「・・・」

 「彼女にしか勃たない自信がある」

 「そんな! あたし、頑張りま」

 「あんたさ」


 俺は、自分でも大人気ないと思うほど、憎しみを込めた目を彼女に向けた。

 「なんでここに居るんだ?」

 「・・・え?」

 「女優するためか? 俺をデートに誘うためか?」

 「・・・」

 「頑張るのは演技? それとも、俺とのセックス? そんなに言うなら、今、ここで出すから舐めてみる? 舌の使い方くらいは教えてやってもいいよ。次の奴には、処女でも口は上手ですって売り込みのキャッチフレーズに付けくわえろよ」

 「!?」

 顔を真っ青にして、茫然と立ち尽くすカンナ。
 俺は、スタジオの中をグルリと見渡した。
 入り口付近に立って、チラチラとこちらを窺うカンナの女性マネージャー。


 ―――――事務所の方針か。


 「カンナ」

 意図して、共演してから初めて彼女の名前を呼んだ。
 驚きの表情で、カンナが目を開く。

 「よく考えろ。こんな事にばっかり頭や体、使ってたら、足踏みどころか、女優として後退する」

 「・・・!」

 「これは、先輩俳優としてしてやれる、最後の助言だ。意味、わかるな?」

 次、こいつが同じような態度できたら、謀った事務所の方を徹底的に叩いてやる。

 「あ〜、カンナちゃ〜ん」

 助け舟を依頼していた助監督が、俺達を見つけた途端、急ぎ足でやってきた。
 俺とカンナを交互に見て、険悪な雰囲気と俺の不機嫌さに、いち早く気付いたようだ。

 「ほら、次のシーンの打ち合わせ。実は変更しようかな〜ってトコがあってさ、カンナちゃん、とりあえず、一度控室に行って話そうか?」

 「・・・はい」

 素直に頷いて歩き出すカンナを尻目に、助監督が肩越しに振り返り、「すんません」と頭を下げている。
 軽く手を上げて見送り、僅かに湧いて出た、大人気無いような気もする自身への自己嫌悪を隠しながら、俺は気になっている事へと思考を馳せた。


 『社長に、ジョニー企画を敵にするって言って――――――』


 ミサ・・・、お前、

 事務所とは、大丈夫なのか――――――?








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