「はーい、ソフィちゃん、こっち向いて」 【カメラマンを見てくださいと言っています】 「いいね。目線は右ね」 【右を見てくださいと言っています】 カメラマンが何かを言う度に、ジョニー企画が用意してくれた通訳の人がいちいち口を出してくる。 そんな事、一つ一つ通訳されなくても、カメラマンの視線や指の動きで何となく判るんだから、ほんと要らないんだから! 「笑顔ね〜」 【笑顔になってくださいと言っています】 なんだかテンション高くて、 「He said〜」 「He said〜」 同じようなセンテンスを繰り返す彼女は、いい大人なのに、見ていると凄く恥ずかしい。 絶対に、業界での仕事、初めてね! 絶対にママよりも若いはずなのに、その洋服のセンスったらないんだから。 髪型だって全然似合ってないし。 英語の発音だって、この前に通訳した学生の方がマシだもん! 心の中で、たっくさん悪口言ってやって、 「あ、いいね〜その笑顔」 【・・・】 キラキラしたライトが、あたしの目を眩ませた。 ―――――― ―――― 「10分休憩しましょう〜」 【10分休憩になるそうです】 通訳さんの言葉に頷いて、用意されていた椅子に座る。 慌ただしくセット替えがされるスタジオをぐるりと見て、 【あ】 入り口のところに、今回の日本でのお世話役らしいノグチを見つけた。 その隣には、さっき出会ったアキラが立っていて、 【・・・】 あたしの視線に気づいた彼が、軽く手を上げるから、仕方くそれに応える。 彼が、日本を代表するあの"アマギアキラ"だって初めて気づいたのは、カフェに迎えに来てくれたノグチに言われたから。 白クマ・・・驕ってもらっちゃったし、借りが出来た事になるのかなぁ・・・? でも・・・アキラの目は嫌いじゃなかった。 藍色の、優しい瞳。 ほんのちょっとだけ、笑顔の雰囲気がママに似てるような気がする――――――。 同じ・・・、黒髪だから・・・かな? ・・・ママ・・・。 考えたら、じわり、涙が出そうになった。 一緒にいた思い出は少ないけれど、ちゃんと全部、覚えてる。 あたしの髪を結ってくれたママの手、 頬にキスをしてくれたママの笑顔、 抱っこしてくれた、温かさ。 同じ目線で見た、太陽に輝く、黒緑色の髪――――――。 『やめて! 私を見ないでッ!』 そして、あたしに向けられた、悲鳴のような言葉。 【・・・ッ】 嫌われているのは知ってる。 もう、あの優しい愛が向けられない事は、ちゃんと解ってる。 でも、 でも、 『クリスマスプレゼントを考えておいて』 毎年繰り返されるパパの言葉に、本当は、 『ママを見たい――――――』 会えなくてもいい。 でも、 ただ一目でいいの。 最後に見たママは、涙でいっぱいだったから、 笑っている、ママを、そっと、見せて欲しいの――――――。 お願い、サンタさん・・・。 でも、 きっと今年のクリスマスプレゼントも、 あたしは欲しいのものを、 ――――――貰えないんだ・・・。 |