小説:ColorChange


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まずは始めてみませんか?
《 Acting.by ケリ 》


 『君は東洋人?』

 出会ったばかりの時、輝くようなヘーゼルの瞳で真っすぐに見つめて"彼"は訊いた。


 ――――ああ、これは、遠い昔、私がまだ、ロスに住んで間もない頃。



 『綺麗な髪だね。光の反射で緑色に見える』

 ありがとう。日本人よ。
 でも祖母は異国の 女性 ひと だったらしいの。

 『へえ』

 若くして亡くなって、どこの国の出身だったか、もう誰も知らないの。
 でも隔世遺伝で、家族の中で私だけこんな髪の色。

 『・・・君も、ルーツを探しにこの国へ来た?』


 ―――そういう事になるのかな。

 彼の長い指が、私の髪をクルクルと弄ぶ。


 『アレキサンドライト』

 え?

 『―――君は、輝く宝石だよ』

 ケヴィン――――――・・・。




 「―――!」

 ハッと目を開けて、

 「夢・・・?」

 ぼんやりと焦点を合わせながら、ここが日本で、そろそろ住みなれてきたマンションの寝室だと理解する。

 天井を見つめながら、目尻に涙の跡を感じて、

 バカね、と自嘲した。


 思い出してしまった。
 もう戻る事はない、幸せな時間。

 「バカね・・・」


 膝を抱くようにして身体を丸める。

 どんなに抱きしめても温もりは自分のものだけ。
 求める温もりが他にない事が、こんなにも悲しい気分にさせる―――。


 未練じゃない。

 胸が苦しいほど泣きたいのは、あの人への未練じゃない。

 未練じゃ、ない――――――。



 トゥルルルル・・・

 自分を抱いたままベッドから起き上がれずに微睡んでいると、ベッドヘッドに置いてある内線電話が鳴りだした。
 どうにか腕を伸ばして受話器をとり、

 「ウェイン?」

 応答しながら、電話の横にあったティッシュも取って、目頭を押えるようにして涙を拭う。
 擦るとすぐに腫れてしまうから気をつけないと・・・。

 「どうしたの?」

 『片瀬から連絡が入ってます。至急確認を取りたい事があるとか』

 「わかった。私からかけ直すわ」

 壁にかかる時計を見る。
 正午を少し回ったところ。

 (片瀬君が?)

 平日のこんな時間に連絡をしてくる事は滅多にない。
 受話器を置いて、今度はサイドテーブルに置かれていたスマホを手に取った。


 着信7件にメールが4件。
 うち、それぞれ1つずつがルビからで、他はすべて片瀬君からだった。
 履歴から、まず片瀬君に発信する。

 『――――ケリ?』

 「遅くなってごめんなさい。何かあったの?」

 『実は、急で申し訳なのですが、 K's ケーズ の中で撮影をさせて欲しいというオファーが入りまして』

 「いつ?」

 『今日です。15時から撮影です』

 「今日!? ――――随分急な話ね」


 言いながら、苦笑するしかなかった。
 段取り以前に、失礼極まりないと思う。

 「経緯は?」

 『あなたのインタビューですよ。ロスで取材受けたでしょう? 日本で展開中の K's ケーズ の写真も提供して』

 「ああ・・・」

 確かに受けたけど・・・。

 「驚いた。あんなローカル誌からどうやって? というか、なぜ?」

 『さあ?』

 片瀬は短く笑う。
 彼が後ろに括っている、腰まである長い髪の先を胸の前で弄んでいる姿が想像できた。


 『なんでも、 うち K's の店内の調度品がコンセプトに合うそうで、急遽変更が決まったと』

 「スペクタクルね」

 『情報の時代ですからね。どうにでも検索はできますよ』

 「確かに。――――あなたが考える差引結果は?」

 『メリットはありますよ。監督は新鋭の鬼才と評判の若手、陣野あかり。クレジットは単独。出演者のラインナップも見事です』

 「ドラマ?」

 『新春ドラマだそうです。ゴールデン枠』

 「ふうん」

 『デメリットは、―――どんな内容で使われるのか、まだ知らされていない事くらいですかね』


 差引結果、メリットの勝ち、ね。

 「ふふ。新春のゴールデンなら、大丈夫だとは思うけど・・・」


 少し、考えてみる。

 片瀬君に店長を任せている K's ケーズ がオープンして半年。
 スタッフ同士の基盤はできたと報告は受けていたから、

 そうね。
 これも、いいタイミングなのかも。


 「―――いいわ」

 私は片瀬君にそう告げた。

 「最終確認に私も行く。15時ね?」

 『いえ、希望の入り時間は14時とのことです』

 「・・・え?」


 楽しいくらいの違和感。

 ――――片瀬君が捕まらなったら、撮影はどうするつもりだったんだろう?


 私はおかしくて思わず吹き出してしまっていた。








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