「え・・・?」 思わず聞き返していた。 私をジッと見つめてくる天城アキラ。 藍色の眼差しが少し細くなって、微笑む口元が優しく感じられるのは気のせいなんかじゃない。 私と彼と、2人が居るスペースだけが切り離されて、 他の世界はぐるんと別次元へ1回転したかと錯覚するほどに、まったくリアリティのない空間だった。 2人以外のもの存在が全て遮断され、彼の声だけが繰り返される。 あんたに惚れてる――――― そう紡いだ言葉は、スローモーションで私の頭に入ってきた。 天城さんの形のいい唇が、 惚れてる――― その言葉に動いたことも、まるでシャボン玉のように私には儚かった。 「あの・・・?」 自分が発した声で現実に戻ってきた。 ちゃんと、後ろに立つウェインの存在も感じられるようになる。 今、何が起こったのか、―――よく、分からない。 「実は」 天城さんが諭すように語りだした。 「あんたを見るのは今日で3度目」 ―――3度? 私は初めてなのに? 「なのに、俺があんたを思い出したのは、それこそ、瞬きの数ほどだ」 明らかに困惑しきっている私に飽きたのか、天城さんは笑いを少しだけ声にして漏らした。 「――――聞こえてる?」 「え? ―――ええ」 「だから、"いつか"じゃ嫌だ」 「あの、」 「明日の夜」 「え?」 「そうだな。ここで」 「ここ?」 ここ、と。 「また、会いたい。今度は約束の元に」 「―――どうして?」 「さっき言った。あんたに惚れてるから」 「・・・」 「どうしても、約束が欲しい」 あまりにも真っすぐなに語ってくる天城さんに圧されて、私は思わず一歩下がり、沈黙を守っていたウェインの腕を掴んだ。 それに気付いた天城さんがウェインに目をやって、自嘲するように頬を緩める。 「まあ、あんた達二人がそういう関係だと言うんなら、潔く諦める余裕は、まだあるけど?」 (!) 「それなら、わた」 「いえ」 光明に飛びつこうとした私を遮ったのは、そのウェインだった。 「私はただのボディガードです」 「ウェイン!?」 驚きのあまり声が裏返ってしまう。 信じられないという意思を込めて睨みつけると、ウェインはふいと目を逸らしてしまった。 いつもなら、決して目線を外すことがないウェインのこの動作は"確信犯"以外何モノでもない。 「・・・」 ため息が出てしまった。 逆に、天城さんの方は声が少し弾みだす。 「じゃあ、明日会える可能性は少しはあるわけだ」 ふぅ。 もう一度ため息、じゃなくて深呼吸――――。 冷静に、冷静に。 「―――そうね」 にっこりと、笑って見せた。 「気が向いたら」 「期待、してる」 彼の瞳の奥に、切ない光。 トクリと鼓動が反応する。 「―――撮影がんばってくださいね」 私は逃げるように踵を返して歩き出していた。 |