走り出したベンツの中。 バックミラーに映るケリは、今まで見た事もないような表情をして車窓に目を向けていた。 珍しいと思う。 ケリの、"何か"を憂う顔はこれまで何度だって見てきた。 けれど、自分自身への色恋沙汰を前にして、憂いた顔を隠さず、 否。 隠せずにいるのだ。 今、自分に生まれかけている、何かしらの"感情"に戸惑って――――。 天城アキラ。 綺麗な男だった。 そして、男として溢れる魅力――――。 ただし、あの程度の男ならケリの周りにはたくさんいる。 けれど天城アキラは間違いなく、ケリにプラスアルファを叩き込んだ。 『あんたに惚れてる』 ロスで過ごしたこれまでの長い時間、女性としての彼女に、こうして臆面もなく心を打ち明けた人間がいただろうか? 否。 ケリは、悲しいくらいたくさんの人に愛されながら、恐らく誰もが腫れモノのように扱ってきた。 今、最も近くにいる"ルビ"さえも・・・。 予感がする。 本当の雇い主である"あの人"と、 日本での主人である"ルビ"に反目してでもケリに創造してやりたい未来―――。 ケリに――――、 もしケリに、二度目の恋があるとしたら、 その相手は、 もしかしたら"彼"、 天城アキラなのかも知れない―――――・・・ |