優しく抱いてやる―――― そう言って、彼女をこの行為にリードした俺だったが、はっきり言って無理だった。 ケリを初めて見かけてから一週間。 その間、結構な恋心らしきものを溜めこんだ状態で長時間 裸体の彼女が俺の腕の中――――・・・ あまりの急展開、冷静にこなせるはずもない。 「はっ、―――ケリ」 快楽の限界に到達する前に、なぜかシーツを這って上の方に逃げ癖がついている彼女を何度も同じ高さに引きもどしながら、俺は執拗に彼女を攻めた。 切なく、可愛く鳴く彼女の声。 逃げ腰ながら、俺の愛撫に素直なケリの身体。 これまで、俺は色んな女を抱いてきた。 恋人、セフレ、一晩限りの大人の契約の子。 それなりに満足してきたし、楽しかった。 なのに、 これまでには感じられなかった予感がある。 俺はもう、ケリを離せないかもしれない―――― 「あぁ・・・っ」 俺が律動するたびに、ケリの外側に広がった胸の膨らみが従順に揺れて、やばいくらい綺麗だった。 自然なその膨らみにきつく吸いつき、気付けば散らした紅い花びらが幾つもあった。 快感から逃れるように仰け反ったケリの腰をしっかりと抱いて、 「俺を見て、ケリ」 「あ、・・・っ、ん」 声を殺すケリの耳たぶを強く噛む。 「声を、抑えるな」 付けた歯形を舌先で舐めて、少しだけ動きを緩め、余裕を与えてやる。 呼吸のせいで震える胸の先に舌の熱を丁寧に与えた後、唇にキスをして、呼びかける。 「・・・ケリ」 落ち着いてきたのか、閉じていたケリの目がゆっくりと開かれ、虚ろに俺を見つめ返してきた。 「大丈夫、か?」 彼女の中の一番奥で動きを止め、息を整えて尋ねると、ケリは意外そうな顔をしていた。 汗ばんだ額に張り付いている前髪を指で避けてやり、 「悪い」 俺は謝罪を口にする。 「この先、気遣えないかもしれない」 「―――え?」 「あんたが良すぎて、夢中になる。自制、無理そうだ」 俺の言葉にケリの瞳が震えた瞬間、 繋がったままだったそこが、俺を包んでいた彼女の温もりが、呼応するように刺激してきた。 衝撃的なうねりが、俺の骨髄までも呑みこんでいく。 「あっ、・・・ッ」 彼女の身体全体が微かに痙攣した後、また蒸発するように色づいた。。 どうやら、力が抜けた途端にイったらしいケリ。 俺は深く息を吐く。 今のはやばかった。 危うく一緒に持っていかれそうになった。 なんでこんなに、これまでの女たちと違うんだ? 俺は、熱に火照る彼女の顔を見降ろした。 広がった艶やかな黒髪。 色気の漂う長い睫の下の眼差し。 吐息すらも、バラ色に染まっていそうな、独特のフェロモン――――。 「ケリ・・・」 名前を呼べば、虚ろに持ちあがる黒目。 その黒水晶に俺の顔を映した彼女は、 「天城さん」 懇願するように俺を呼ぶ。 その瞬間、 今、この時に、俺がここに在る意味を理解する。 誰かの為に、誰かが存在するという定義が本当にあったなら、それは、この世界でたった一人だけ、彼女だ。 ケリが、俺の唯一の女。 泣き出しそうなほどの愛しさが俺の胸にこみあげてきて、同時に、支配欲が頭をかすめる。 「ケリ」 制めていた律動を再開した。 ここからは、"気遣えない"と宣言した通り容赦はしない。 「んっ、ああっ・・・、いや」 すぐに官能に呑まれようとする彼女の腕を、投げるようにして俺の首に回させた。 腕に抱え込んだ彼女の左脚が、俺が揺れる度に宙を舞う。 しがみついてくる彼女の甘い呼吸が、俺の耳のすぐそばで繰り返された。 「いや、じゃない、ケリ、俺を、見ろ」 耳を舐めながら低く求めると、彼女の感度は更にあがった。 「見ろ」 「あ、あっ」 快感を求める俺の速度もあがる。 もう、とまらない。 「は、あんっ、天城、さ、」 一心に俺を求めるケリの濡れた目が、やっと、俺を見た。 二人だけが紡ぐ、中心から広がる快楽に全神経を夢中で注ぐ。 「ケリ、・・・っ」 「、んっ・・・」 二人の繋がった場所が爆ぜるその瞬間、俺達は互いの声を深いキスの奥に呑みこんでいた。 |