小説:ColorChange


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まずは始めてみませんか?
《 Special-Act.by エリカ 》


 色に例えるなら、彼女はグリーン。

 彼女の艶やかな黒髪が、太陽の光に当たると緑色に見えるからっていう理由じゃない。
 私、樫崎エリカが長年見てきた彼女"ケリ・M"は、深い深い、緑色の人。
 その内側に、まるで癒しを持っているような人――――。

 中学の時からそうだった。
 彼女の透明な雰囲気に惹かれて、男も女も遠巻きに囲っていた。

 誰をも惹きつける彼女だったけれど、半径1m以内に目ざわりな虫が寄れなかったのは、実は私の功労賞的働きの賜物。
 友人達には、ケリの出会いを邪魔しないでと何度も窘められたけれど、私は開き直って排除を継続。
 その結果、ケリのバイト先の関係者や通学途中とか、私のテリトリーを越えた所では何度か告白されたようだけど、ケリは未だに、自分はそんなにモテる部類ではないと勘違いをしていると思う。

 無自覚云々じゃない。
 ケリは、まったくもって自分の事には関心が薄いのだ。

 その緑は、透き通っていて美しい。
 けれど色は濃く、透明度は最高のクラリティ。

 いつか美術館で見た事がある、国宝級のアレキサンドライト、そのモスグリーンの煌めきのよう・・・。

 とびきりの美人ってわけでもないケリが、何故か宝石のように美しく人の目に映るのは、彼女が、内側の隅々まで" 緑の人 いやしのひと "だからだと思う。


 これは私の持論。

 ・・・理屈になってないか――――


 そんな緑の光を持つ彼女が、19歳の時に恋をした。

 恋をすれば女の子は変わる――――。
 あながち嘘でもなかったようだ。

 あいつと会うたびに、ケリはまるでラナンキュラスの無数の花弁が開くように、女性らしさを綻ばせていった。

 それはピンク色でオレンジ色で、まるで陽だまりのような明るさだった。
 当初は、あいつの出来すぎた胡散臭さに大丈夫かと僅かに勘が働いたけど、彼女が幸せそうに微笑むから、私はそっと見守っていた。


 幸せが続いたのは1年くらい。
 その後は、

 ケリが信じていたあいつとの"愛"が崩壊していくばかりの夫婦生活――――


 けれど、

 どんなに裏切られても、どんなに心を傷つけられても、
 彼女は結局、ルビを巻き込んで立てなくなるまで、あいつの味方であるようにと努力して愛し続けた。



 "あの事件"があって、どうにか離婚が成立して3年近く。

 他人を無意識に癒せても、自分を癒すには時間がかかる。
 けれど、生活基盤を変えようと日本に帰国したのは正解だったかもしれない。

 「思い出したら、今でも泣きそうなくらい、優しかった――――」

 憧れるように自分の思い出を語る彼女を、本当に久しぶりに見た気がした。
 そして、毎晩毎晩、涙ながらに見てきた過去の夢を、天城アキラに抱かれた夜は見る事も無かったと言う。 


 それはつまり、ケリの心が満たされたと言う事だ。

 天城アキラは気付いている。

 私みたいに、観察しての結果じゃなくて、


 多分本能で、相性で――――――、

 ケリが、どんな愛を欲しがっているのかという事を、知っているのだと思う。


 「この恋が終わった時、―――私、立っていられると思う?」


 私は頷いて見せた。


 「もし、彼を失ったとしても、あなたにはまだ、ルビがいて、私たちがいるわ―――」


 ああ、16年前に焦がれるように見ていた、恋する彼女が蘇る。


 けれど不思議。

 あの頃よりも人生スキルがついた35歳。
 傷を知った分、内面から溢れる優しさは熟度を増したとは思う。

 そうして大人になったから?

 彼女から放たれる光は、
 以前見た、ピンク色やオレンジ色や、そんな陽だまりのような光ではなく、透明度の高いモスグリーン。
 太陽を受ける水面のように、キラキラと輝く想いの片鱗が眩しいくらいに彼女を包んでいる。


 ――――――ああ、また。

 私は、ツキンと痛む胸の鼓動を抑え込んだ。
 この新しい恋の最中に、また私を魅了する新しいケリが生まれてくるのだろう――――。

 その予感に、私が複雑な痛みを抱え込んだのは、また別の話―――。








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