小説:クロムの蕾


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GREENISH BLUE
ENCOUNTER


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 「ねぇ佐倉、健斗から連絡きてないの?」

 席に着こうとするあたしに尋ねてきたのは、前の席に座る藤倉君。
 サッカー部のエースストライカーで、ユース代表にも選ばれたことがあるスポーツ少年。

 陽に焼けた肌が健康的で、いっつも溌剌としている印象がある。
 短髪のツンツンした黒い髪の毛先だけ薄茶で、手触りはゴワゴワしてそうなのになんだか毛並みが良さそうに見える。

 目鼻立ちもはっきりしているから、お嬢様方の中にも密かに注目されているのは周知の事。
 時々聞こえる粗野な言葉遣い(多分普通なんだけど)もお嬢様にとっては萌えなポジションらしい。


 そして、彼が"健斗"と呼んでいるのは"南健斗"の事で、あたしの幼馴染。

 近所の好で、幼稚園から小学校までずっと一緒だった。
 その健ちゃんは中学から白邦学園に通い始めて、あたしと藤倉君は公立中学で2年、3年の時のクラスメイト。

 健ちゃんと藤倉君が実は同じサッカークラブのチームメイトで、共通の友達が居たなんて事は、この学園に入って初めて知った。

 凄い、――――ううん。
 素敵な偶然。

 「連絡、きてないよ」

 「あいつ大丈夫かよ。もう1ヶ月近く連絡とれてないぜ?」

 「大丈夫みたい。お父さんと海外にいるんだって。スーパーで偶然会ったお手伝いさんに聞いたんだ」

 「なんだ、そっか」

 「うん。どうせ携帯失くして連絡先わかんないとか、そんな理由だ、……よ」


 思わず、語尾が小さくなる。
 視界の端に感じる存在。

 本宮君と、うちのクラスでも"お姫様"で有名な3人がこっちを見ていた。

 教室に入ってきた時から何となく感じていたけれど――――、


 ヤだな……。

 あたしの噂、してたりするのかなあ……。
 悪口じゃないといいんだけど……。


 気分ががっつり沈んでしまう。


 「どうした? ―――ああ」

 あたしの様子から、藤倉君がその視線に気づいたようで、苦笑する。


 「本宮って――――、ときどき、佐倉のこと見てるよな」

 「え?」

 ビクっと身体が反応してしまう。

 見上げると、いつもは爽やか少年の藤倉君がニヤリと笑ってた。


 「冗談。佐倉、免疫なさすぎ」

 「藤倉君!」

 あたしは口を結んで睨みつけてやる。
 藤倉君はそんなあたしを余所に豪快に笑った。

 そんな笑い顔も、白い歯が見えて爽やか君。

 「っていうかさ、顔、赤くなるならまだしも、なんで青くなる?」

 あはは、って肩を揺らして笑うけれど、あたしは全然楽しくない。

 青くもなるよ。
 あの時の感覚はあたしにとって、なんだかいい感じはしなかったんだもん。

 思い出しても、なんだかゾワッってする。


 「そんなに睨むなって。―――でも、転校初日に結構長いこと見詰め合ってたよな?」


 「……」

 あれは、見つめ合ってたというより……、


 「図星、だろ?」

 藤倉君は時々こうやって爽やか君から外れたりする。


 「……藤倉君、会話にメリハリつきすぎだから」

 グーでその肩をパンチ。

 「はは。悪い悪い。しっかし本宮って、遠目で見てもやっぱ王子様ってカンジだよな」

 「そう、だね」


 王子様。
 本当にそう思う。

 金色に近いクリーム色の髪も、溶けそうな程に甘いヘーゼルの瞳も、綺麗な物腰、話の仕方。
 休み時間になるとまだまだ見物する女の子が絶えない人気ぶりも理解できる。

 そんな彼女達の一番の注目は、課外授業の1つである乗馬。
 この学園には馬術部が誇るカサブランカという馬がいて、名前の由来にもなったその馬の毛色は白。
 つまり、白馬に跨った本宮君をいつ見れるのか、それがこの冬の学園のメインイベントかも。

 きっと凄い王子様振りなんだろうって、想像は容易い。


 そんな事を考えている内に、こちらに向けられていた視線は消えていた。


 「……あ、授業始まるよ」

 チャイムが鳴ったと同時に、あたしは机から教科書を出し始める。

 藤倉君が前を向いたから、あたしはさっきの事をもう一度考えてみた。
 転校初日、本宮君があたしを見てたあの時間。

 あれは"見つめ合ってた"とは違うと思う。

 クラスを観察してたんだ。
 怖いくらい冷静に―――――。


 そして、窓側の後ろだったあたしが、たまたま最後に視界に入って、そこで数秒とまっただけの事。


 あの感覚は、あまり良い感じがしなかった。
 凄く、居心地が悪かった。

 藤倉君が言うような、甘い感じじゃない。

 だから、"見つめ合ってた"とは全然違うんだ――――。



 それにしても―――――、

 さっき、どうしてこっちを見てたんだろう……?


 (気になるなぁ……)


 数日後、意味も分からない内に、この時の余波があたしに襲いかかった。




 ―――――
 ―――

 昨日は、あかりちゃんのお店ではお花の入荷イベント。

 いつもより大量の入荷だったから夜中近くまで手伝って、今朝はぐったり体力消耗中……。

 お弁当作る余力もなくて、お昼は久しぶりの学食に来ていた。


 「なに食べようかな……」

 列に並ぶ前に、今日のメニューを確認する。


 いつ来ても慣れないレストラン風の学食は、1000円のオムライスから15000円までの煌びやかなランチコースまでサービス内容が充実。
 まあ、庶民のあたしは1000円コースしか選択範囲ありませんけど。

 オムライスとスパゲティとサンドイッチかぁ……。


 「う〜ん」

 真剣に悩んでいるところだった。


 「佐倉さん」

 名前を呼ばれて、あたしは顔をあげた。


 「……ミナコさん」


 黒くて艶やかな長い髪が印象的な美人さん。
 彼女の左右にいる2人も含めて、お嬢様としてもランクは特上の有名な人達だ。

 「ごきげんよう。これから少し、お時間よろしいかしら?」

 「は……い」

 綺麗だけど、鋭い目線の3人に囲まれて、あたしは頷くしかできなかった。








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