小説:クロムの蕾


<クロムの蕾 目次へ>


GREENISH BLUE
PROCESSED


 公園から、逃げ出すように走り出して、息を弾ませて家に着いて、まずは台所でお水を飲んだ。

 秋も終わりのこの季節。
 いつもならあったかい白湯の方が大好きなのに、なんだか喉の渇きが酷くて、ウォーターサーバーから冷水をグラスにいれた。
 飲みこんだ冷たいお水の塊が、身体のどこを通っているのかわかるくらいに、あたし自身が発熱していた。


 血の流れと共にある胸の鼓動。

 全身に流れるものだから、熱は上がる一方で――――。

 それでいて、体感する肌寒さとは違って、妙に慣れない、悪寒みたいな痺れがピリピリと指先まで走っていた。


 『身体で払ってくれてもいいよ?』


 耳に残る甘い囁き。

 そう言いながらあたしの髪に触れてきた本宮君の指先が、微かに嘲笑するように動いた唇が、くっきりとした輪郭で、何度もあたしの視界をピンボケさせる。



 あのクリーム色の髪。

 ヒマワリが咲くヘーゼルの瞳。

 誰もが思わずつられてしまう、振りまく甘い笑顔。



 そんな本宮君を、みんなは王子様みたいだというけれど、



 あたしは、




 やっぱり、





 本宮君は、苦手だ…………。









著作権について、下部に明記しておりマス。



イチ香(カ)の書いた物語の著作権は、イチ香(カ)にありマス。ウェブ上に公開しておりマスが、権利は放棄しておりマセン。詳しくは「こちら」をお読みくだサイ。