金曜の夜は、グループのヘッドクォーターがあるアメリカに合わせてかなり忙しくなる。 オンオフがはっきりしている彼らにとって、週末は仕事をする時間じゃないから、ウィークディ最終日、僕の電話とネットのラインは、アポイントを求めるランプが常に点灯。 時差があるからこの時間帯の窮屈さは仕方ないとは思うけれど、通常業務に加えて、グループ全体のタスクが順調に進んでいるのかの確認と、翌週への課題をまとめ、連携、などなど。 会長として、ある意味前線には居ない僕がこれだけ多忙を極めているんだから、おおよその執権を任せているルネが、グチグチ悲鳴をあげるのも無理はないと思う。 それでも、Web会議でルネと一緒にカメラに映っていた通訳が、前回も傍にいた東洋系の女性だったことに妙な愉しさを覚え、慣習的な週末の業務を気分良く終えたタイミングで、その連絡は齎された。 携帯のディスプレイに表示された見覚えの無い番号。 「……」 電源を入れっぱなしだったPCに、ふと、目をやる。 デスクの引き出しからケーブルを一本取り出して、PCと携帯をコネクトさせた。 「……Hello?」 『―――――本宮、ルビ様ですか?』 ネイティブな英語。 「……」 『突然のお電話で大変失礼いたしております。私は、ウィンストン家に執事として勤めております、マシュー・ワイズマンと申します』 ウィンストン? この前、大輝が言っていたアレか……。 数あるブラフの中から、僕のプライベートナンバーを絞り込めたなんて、流石、と 【どういったご用件で?】 『内々に、貴方様にお会いしたいとウィンストン家の者が申しておりまして、それでこのように不躾な連絡方法をとらせていただきました』 【それはどういったご用件で?】 『お会いいただければ、ご理解いただけるかと存じます』 堂々巡りだ。 【内々というのは?】 『公式的な面会では無いという事です』 面会した記録は残したくないという事か―――――。 『ああ、ボディガードはお連れいただいて結構でございます』 チラリ、とPCの画面を見た。 通信基地=アメリカ:ワシントン州:検索中……*** 【……日時は?】 『明日、などはいかがでしょう? お時間はお任せいたします』 明日……。 少し考える。 千愛理との待ち合わせは10時。 水族館に行って食事をして、想定は3時間弱。 【場所は?】 『国際空港近くのホテルにお部屋をとらせていただきます』 移動時間は30分ってとこかな―――――。 【――――14時なら】 『承知いたしました』 PCの画面では、刻々と情報更新が行われている。 通信基地=アメリカ:ワシントン州:シアトル:検索中……*** 『これから、シアトルより日本へ向かいます』 執事、マシューの言葉に、目を瞠った。 【なんだ、聞けば答えてくれたんだ?】 『緊張感も、明日への演出の内かと存じまして』 逆探知していたのを、知っていたような口ぶり。 【……ふうん?】 一体、ウィンストン家の誰が僕を訪ねて来るのか、このマシュー・ワイズマンという執事のお陰で大分興味が湧いてきた。 【明日、楽しみにしてるよ】 『お待ちしております。本宮様』 通話が切れたと同時に上がってきた検索不可のエラーMSG。 明日の予定を思うと、自然と唇の端が上がるのが分かる。 「楽しい一日になりそうだね」 僕は、そう呟きながらマウスを動かし、ポップアップのOKボタンをクリックした。 |