「うそ……」 展望レストランの入り口で、千愛理が驚いた様子で固まっている。 薄茶の目が開かれたその表情に思わず笑いを覚えてながら、僕は言った。 「千愛理のコートもクラークに預けるよね?」 「あ、うん。……じゃなくて、本宮君、本当にここでご飯するの?」 「こんな事で嘘つくほど愚かじゃないつもりだけど」 「そうじゃなくて、あの、あたし、そんなに持ってなくて……」 バックのストラップを握りしめながら、本気で困ったような顔をして、なんだか色気の無い事を言い出そうとしている千愛理の唇を、 「千愛理」 思わず人差し指で押さえこんだ。 見る見るうちに真っ赤になっていく千愛理。 「も、もとみ」 焦る毎に、顔から白い首元まで、綺麗な桃色に染まっていく。 少し、僕の胸が疼いたのが分かった。 キスマークが、映えそうな肌だ―――――。 「……せっかくのデートなんだから、黙って僕にエスコートさせて?」 「あ、……でも」 「別れ際にキスでもくれたら僕としては十分な見返りだから」 「えっ!?」 全身で驚いている千愛理。 そこまで反応されると、ちょっと気分悪いよね……。 「――――冗談だよ」 これじゃあ、僕のペースで押し倒したら強姦になりそうだ。 「……本宮君、あたしにはなんだか意地悪だよね?」 唇をキュっと結んで、千愛理は僅かに頬を膨らませた。 「そう?」 「そうだよ」 「脱いで?」 「えッ!?」 「……コート」 「ッ、……ほら、やっぱり」 面白がっている僕の表情に気づいたらしい千愛理は、悔しそうな、困っているような顔をしながらコートを脱ぎ始めて、それを見守っていた僕の目は、 「……千愛理」 そのクリーム色のコートの下から現れた姿に、完全に奪われてしまっていた。 裾にシフォンの膨らみを活用した、細かいフリルと小花柄で彩られたワンピース姿。 波打つようなピンクとオレンジの生地がスウィートな色合いで、ウエストの高い位置に結ばれたモスグリーンの数本の細紐のリボンが、千愛理の魅力をよく引き立てている。 感激が湧き上がって来た。 「How gorgeous! You look's like a Gerbera!」 「え?」 突然の僕の英語に驚いたのか、千愛理が大きく目を見開いていた。 「綺麗だ。まるでガーベラだね」 女性を褒めるときは躊躇しない。 固まっている千愛理の頬に、そっと唇を触れさせる。 「凄く可愛い、千愛理」 「も、本宮君!」 沸騰しそうなほどに顔を真っ赤にした千愛理を他所に、僕は何事もなかったかのようにクラークの係りにコートを手渡した。 肩越しに振り返って見た千愛理は、気のせいか眼も潤んでいるように見えて……。 頬にキスでこの反応――――。 これから先、僕の感じているこの思いが本当に恋心へシフトしたとしたら、体を重ねるまでに一体どれだけの日数を要するんだろう? 日本の高校生のカップルって、どの程度で合意するものかな? 今まで相手にしてきた女性達と違って、セックスが前提の関係じゃないから、これは僕にとってかなりの難問になる気がした。 |