小説:クロムの蕾


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PINKISH
DESIRE




 聖夜イヴ奇跡ジュエルはたった一人のために――――――。

 千愛理が"Stella"2号店にディスプレイしたアレンジメントに触発されて、桝井さんが突発的に発足したその販売企画は、動きの少ない特殊な石の販売成績をなだらかに上げている。
 恐らく効果は、クリスマスという雰囲気も手伝った一時的なもだとは思うけど、桝井さん曰く、その戦略販売を体験できたスタッフが増えた事が必ず次に繋がると、上げた成果を別視点でデイリーに報告してきていた。

 千愛理のアレンジには、見る者を魅了する、不思議な力が込められているみたいだ。
 ケリと僕の、長年お互いが心の奥底に隠し持っていたわだかまりを、驚くほどにスルリとひも解いたあの女神像と天使のディスプレイ。

 そして、僕が泣きたくなるほどに、恋心を伝えてきた今回のディスプレイ。

 店舗の道向かいの車道から、ずっと千愛理の事を見つめていた。
 想いを込めたアレンジが、一挿し一挿し形を成すのを見ている内に、自然と涙が溢れて来た。

 『降参……』

 ただ静かに、千愛理の心を受け取って、

 『僕もだよ』

 自然と紡がれた、その独白。


 ああ、これでいいんだ。

 これで良かったんだ。


 頭で考えて、僕は何を千愛理に伝えようと思っていたんだろう。

 この溢れて来る想いは、口を開けば、ちゃんと君に伝わる言葉になって、紡がれていた筈なのに――――。



 フェアな恋に不慣れな、――――そんな情けない僕を受け入れようと思った。
 今、僕が抱えているこの気持ちを、正直に伝えようと覚悟を決めた。



 普通の恋に戸惑って、意識的に動けなくなってしまった僕の事も、
 だからこそ、僕の事で泣く千愛理を、優位から上手に慰めようなんて、自分本位の卑怯な駆け引きを選択していた事も、

 "好きだよ"

 君へのその一言が、喉が焼き付いたように紡げなかった事を、
 伝えたかったのに、伝えられなかった事を、
 臆した僕は、先を歩く君の背中を見ている事を――――――。

 「千愛理……」

 手に持ったブーケを見下ろして息をつく。


 ストック。

 オールドダッチ。

 ブラックバカラに、クリスマスローズ。

 そして、赤のコキア――――――。



 千愛理を待つ間、胸が震えて、痛かった。

 「早く来て、千愛理……」

 呟く声が震え、連鎖するように手も震えて、丸いブーケから飛び出たコキアの小花が、そわそわと同じように揺れていた。

 まるで、僕の思いを表すように……、


 "あなたに打ち明けます"


 そんな決意を、優しくからかうように――――――。








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