一体どこでルビ君が本気になったかなんて、あたしにも、それくらいは解る。 自覚はある。 『―――――壊して、いいよ……? 我慢、しないで、ルビ君の好きなように、その……シテくれていいから』 覚悟を決めて挑発したんだから、どんな事でも、何をされても、ルビ君を信じようって、 …………でも、 それまでみたいに、内容のある会話はほとんど無いまま、事態はどんどん進んで行く。 あっという間にドレスは脱がされて、ルビ君もほとんど裸で、 キスをされたり、 肩を噛まれたり、 腕の撫でられて、 指先を擦られて、 何度も何度も、昇ってくる痺れに身体を震わせるしか無かったあたしに、 「可愛い……、もっと感じて」 ルビ君のトパーズの瞳が、優しい声が、満足気に伝えて来る。 「その甘い声は、僕にとっては告白と一緒」 「……ふ、……ッ、ぁ」 「僕の愛撫に応えて漏らすのは、"好き"、"好き"、"もっと愛して"」 信じられない。 身体だけじゃなく、顔も燃えてしまいそうな程の、ルビ君の、甘い言葉――――――。 「ぁあッ、……ゃ」 最後の1枚だった下着を脱がされて、素肌の身体の線を、ルビ君の掌が何にも邪魔される事無く滑らかになぞってくる。 そして、 「!」 ルビ君の指先がそこに触れた時、あたしは初めて、逃げるように身体を浮かせた。 「―――――千愛理」 まるでそれを予測していたかのように、瞬時に顔を近づけてきたルビ君は、 「僕を見て」 あたしの唇に優しくて長いキスを落とした後、近距離で目を合わせたまま、それを告げる。 「千愛理の、こういう顔を知っているのは、世界で僕だけだね」 「……」 「そしてここも……」 トパーズの視線が、まるで杭のように刺し込んできて、あたしを動かさない。 始めは、まるで触れるか触れないか――――――。 「僕だけ」 「……ルビくん……」 頬に、チュ、と強めのキスをされたのと同時に、 「あッ」 まるで 「……ふ、……ぅ……あ」 どんな声が、あたしから出ているのか、もうそんな事は、何も考えられなくて――――――、 髪を撫でられて、 唇での愛撫を胸の周りに感じながら、 自分でも良く知らない場所を、好きな人に弄られているこの恥ずかしさ……。 そして、 その混乱を齎す何もかもを、霞ませるほど凌駕する、 強い、快感――――――。 「ぁ、……いや、……まって、ルビく」 「気持ちいい?」 「……あぁッ」 「少しでも感じたなら、僕を褒めて」 「……はぅ」 「気持ち良いって、僕に応えて」 今までは聞こえてこなかった水音が、何の音なのか、 「ああッ、あ、や、いや」 身体のあちこちから生まれて駆けるこの稲妻が何なのか、 「や、ルビ、……こ、」 ――――――怖い、 とっさに、口にする事は 何かが、あたしの脳を目指して、激しく飛び出そうとしているのが感じられて、 「……ぅ、ルビく……はぁ」 「千愛、理……」 「ぁ、……ふ」 「千愛理……僕を見て」 気が付けば、目を閉じて翻弄されていたあたしは、朦朧とした感覚の中で、ルビ君の眼差しを改めて受け止めた。 「ルビ……君」 「好きだよ、千愛理」 あたしの中で、一層激しく動くルビ君の指先。 「ルビく、……あ、……ッ」 「好きだ」 「……あたしも、好き……、ぁ」 絞り出すように応えた瞬間、 「ああ、ぁぁ、……あ」 ビクビク、と自分の身体が揺れたのが解った。 脳の中で、何処かへの扉が開かれる。 ルビ君が触れた奥深いその場所から、その扉の向こうまで、形を持った何かが一気に駆け抜けていった。 まるで他人の身体のように、制御しきれず跳ねる身体。 その余韻に、頭を真っ白にして自分でも驚くくらい脱力したあたしの唇に、ルビ君が舌を入れてきて――――――……、 ……温かい……。 温もりを感じたのと同時に、とても縋りつきたい気持ちになって、初めて、あたしからもその舌先に吸い付いた。 ギュッとして欲しくて、あたしの両腕も、本当に自然に、ルビ君の背中に廻っていて――――――、 一瞬、ルビ君の動きが止まった気がしたけれど、直ぐに再開されたキスに、ホッとする。 しばらくして、身体の感覚が現実に戻ってきた頃、あたしの唇から離れたルビ君の唇が、 頬に、鎖骨に、そして胸元に下がるコンクパール辺りに落とされた。 そのキスは、とても長くて、夢見心地のあたしを、未だ続く余韻の中に手招いていたけれど、 「――――――ちょっとだけ離れるね」 「ぇ……?」 ぼんやりとした意識の中で答えたあたしの髪を一撫でして、何かを決したような真剣な目をしながらベッドから抜け出したルビ君は、そういえば既に全裸で、 「!」 あたしは、見ないように慌てて目を逸らす。 ――――――何を、してるんだろう? 直ぐにベッドが揺れて、釣られるように視線を戻したあたしの目に映るルビ君の手には、平たくて、蓋が開けられた丸いケースが握られていて、 「……見られると、やりにくいかな」 「え? ――――――あ」 何故か急に、上半身を乗せてきたルビ君の唇が、開かれたあたしの唇に重なった。 膝立ちの体勢のまま、ルビ君が齎してくれる啄ばむようなキスは、次第に、深いキスへと変わっていく。 「千愛理……」 「……ん、ぁ」 最初は、キスの仕方だって知らなかったあたしが、こうしてなんとかルビ君に応えられるようになっていて、 "ああ、今のあたしの一部は、もうルビ君に染められているんだ――――――" 発見したその事実に、 嬉しい……。 不意に悦びがこみ上げてきた。 ――――――そう。 あたしは、染められたいんだ。 ルビ君に、 これからのあたしを全部、ぜんぶ、 何もかもを染めて欲しい――――――……。 「千愛理」 合わさっていた唇で、あたしの名前を呼ぶルビ君に、目を合わせる事で返事をする。 いつもより色づいて見えるルビ君の唇が、あたしとのキスで濡れていた。 「ついてきて、千愛理」 耳元にキスをされながら、そう囁かれたかと思ったら、 「え?」 ルビ君の右手が、わき腹をなぞるようにして腰までくだっていって、それから、掴むようにあたしの左膝の裏に入り込む。 いつの間にか、足の間にはルビ君の身体がすっぽりと重なっていて、そのスペースを空ける為に、まるで自然に、もう片方の足も膝を曲げたまま上げられて、普段なら有り得ない体勢で固定されてしまった。 あたし、今――――――、 「……ッ」 自分がどんな恰好をしているか、想像するだけで、恥ずかしさで眩暈がしそう……。 逃げるように、顔を横に向けたあたしに、 「千愛理、僕を見て」 低くて、指示するようなその声に、思わず視線を戻してしまう。 すると、あたしを見つめるルビ君のトパーズの瞳が、何かを思うような光を湛えていて、 「ルビ君……」 良く見ると、クリーム色に近い金髪が、少し汗ばんだ額に張り付いていた。 ――――――そういえばあたしの身体も、ほんのりと熱を持って汗ばんでいて、……そんな二人の身体が密着して、生まれたままの姿で、こうして抱きしめ合って、 誰にも見せられない姿を、 誰にも聞かれたくない声を、 ルビ君にだけ――――――、 あたしにだけ――――――……。 そうか……。 『誰にも見せられない姿を晒される事で、初めてその想いを感じられる』 ルビ君の言葉の意味は、こういう事なんだ――――――と。 心にすとんと落ちてきた。 思っていたよりも広いルビ君の肩幅。 身体にかかってくるルビ君の存在の重さ。 弱くなったコロンの香りと、ついさっきまでは知らなかった、 ……エッチな匂い……。 あたしを見下ろす、切ない光を宿したように見えるルビ君の眼差しが、とてもとても、愛おしい。 そして、こんな恥ずかしい格好を見せるのは、ルビ君にだけ――――――。 ルビ君に、だけ――――――……。 なんとなく、新たな意志が、あたしに芽生えたその時、 「――――――千愛理」 囁くような声音で、ルビ君があたしの前髪を梳くように撫でてきた。 「…… あたしの可否を求めない宣言を合図に、首の後ろに入り込んできたルビ君の左腕。 「最初だけ、痛いと思うけど、我慢して」 「……」 あたしが無言で頷くと、ルビ君は優しく目を細めた。 耳元に擽ったいキスをされて、 「……ぁ」 膝裏から抱えられた左足がなおさらに開かれて、 心拍数が、上がる。 緊張で 「千愛理」 「ルビく……、ッ」 熱い塊が、あたしのそこに当てられたかと思った瞬間、グッと入り込んでくる"何か"――――――。 「――――――、ッ」 はじめは、 "苦しい" そう思った。 捩じりこまれる感覚が、凄く苦しくて、きつくて、 でも次第に、 (――――――痛ッ……、嘘……だめ) 徐々に強さを増して襲ってくる激痛からの逃げ場所が欲しくて、あたしは無意識に、ルビ君の肩にしがみ付いていた。 |