小説:クロムの蕾


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PINKISH
EMBRACE




 さっきまで、はっきりといろめいていた千愛理の顔が、僕が入り込んでいく度に、苦痛の表情へと変わっていく。

 柔らかかった全身が硬直して、僕の肩に縋りつく指の力が強い。


 千愛理の中はやっぱりまだ蕾で、出来るだけ丁寧に解したつもりだったけど、それでも、かなり狭くて――――――。



 『女性の中は、最初の男でその形が決まる』

 そう語ったのはルネだったか……。

 『例えば、中がヒョウタンの形だとイメージして、その真ん中あたりの狭くなった部分をどう破られるかによって女性の形は変わるんだよ。つまり、男のイチモツによって、その破る角度や位置が違うだろう? 女性は、男を知るまではまだ未完の芸術で、そして最初の男ってのは、最後にそのヴィーナスを作り上げる権利を得るって事だ。男として、最高の栄誉だと思うね』


 僕の相手は、全員が年上で経験者。

 ルネが興奮気味に語るその思いは、正直、あまり理解は出来なかったし、興味も湧かなかった。



 けれど今、


 「……ッ」

 眉間を中央に狭め、唇を噛みはじめた千愛理。

 密着した二人の肌の間に、火傷しそうな程の熱を感じる。




 裂かれる痛みに耐える千愛理の顔を見て、

 千愛理の中へと進む僕への抵抗を強く感じて、



 僕の中に、ツキンと何かが走り抜けた。




 「僕を拒まないで、千愛理――――――」

 口をついて出た言葉。


 「……どうして……?」

 それに応える、千愛理の小さな声。


 「千愛理……」

 「どうして?」

 戸惑いを隠さず、眉尻を下げて問いかける千愛理。



 「……どうしてルビ君が泣いてるの?」



 その言葉と共に、千愛理の目尻からも形の無い涙が流れ落ちた。


 「……ごめん」


 それを親指で拭って、組み敷いた千愛理の首筋に顔を埋めてから、溢れ出てしまった感情を言葉に綴る。

 「君が苦しそうなのに、嬉しい――――――」

 「……え?」

 「辛そうなのに、僕は嬉しい……」



 『女性は、男を知るまではまだ未完の芸術で、最初の男が、そのヴィーナスを作り上げる』



 「ルビ君……?」


 ルネの言葉を借りて表すなら、きっと、この時間は"こういう事"――――――。




 「こうして、初めての君を抱く事で、――――――君が生まれてきた理由の中に、僕の存在も含まれたような気がするから」



 「……ルビ君……」


 さっきまでとは全く違う顔で涙を溜めた千愛理が、息を吐くように僕の名前を呼んだ瞬間、

 これまで頑なに僕を拒んでいた千愛理の中が、うねるようにして柔らかくなり、一気に僕を誘い込んだ。








 あたしが生まれてきたその理由に、ルビ君が――――――……。


 それを口にしたルビ君の表情は、今にも泣き出しそうに歪みながら、それでも、綺麗な笑みを混ぜていて、

 ルビ君が刻んだその言葉の意味を理解した時、



 心から、

 本当に心から、


 ルビ君と一つになりたいと祈るように思った。



 手を伸ばして、ルビ君の頬に触れる。

 広げられた足の両膝を、力を抜いて自ら引き上げると、密着していたルビ君の身体が、もっともっと近くなった。


 正直、そこはジンジンと音を立てるほど、かなり痛くて、

 挟まったような異物感がもの凄くて、

 少しでも身体が動くと、

 それは、ベッドの軋みで生じる振動でだって、



 本当は、

 大声を上げて、痛いって、泣いてしまいそうで……、


 ――――――でも、


 「好き」

 「千愛理……」

 「好き」

 「……」

 「――――――きて」



 ルビ君の肩を思いっきり抱きしめて、



 「千愛理」

 腫れ上がった様に感じられる、さらにその奥を目指してルビ君が身体を動かしてくる。


 「……ぅ、ぁあッ」

 弱音を吐きそうになる程の痛みを逃がそうと、ますますルビ君の背中に縋りつく。


 「千愛、理ッ」

 ルビ君から漏れる呼吸も、荒くなって、


 「ルビ、く」

 その表情は、あたしと同じくらいに、苦しそうで、

 それでも、突き進んでくる強さが、じっくりとあたしを侵食してくる。



 「――――――あぁッ」



 熱が、あたしをこじ開けていた。


 それは、身体が裂かれるというだけじゃない。

 これから先、あたしとルビ君で作っていく、新しい関係への扉――――――。


 二人で向かう未来への、その扉を、開ける行為――――――……。



 ――――――どれくらい経ったのか、


 数分、もしかしたら数十秒……?



 一つ、深く長い息を吐き出した後、ルビ君の身体がピタリと止まって、絡まるように抱き合った二人の、乱れた呼吸だけが、思考の端を過ぎていく。



 激しい痛みで全ての神経が麻痺したのか、あたしは指先まで感覚を失くしてた。

 気を抜いたら、やっぱり声を上げて泣いてしまいそうだったけれど、



 「……全部、挿入はいったよ」

 耳下で、そう優しく言われた途端、

 「……ぁ……」

 あたしの全身からホッと力が抜けて、鳥肌のように震えが全身を駆け抜けた。



 良かった――――――。

 ちゃんと出来た……。


 大きく開いたままの両足や、思わず向けてしまった視線の先に見えた、あたしとルビ君が繋がる場所に、

 やっぱり凄く恥ずかしくなって、今すぐにでも着替えたかったけど、


 「Thank you for loving me, ――――――I love you」

 改めて、ギュッと抱きしめてくれたルビ君の肌の温もりを感じながら、


 "君の想い、受け取ったよ――――――"

 その言葉に、あたしは暫く、泣き止む事が出来なかった。







 千愛理の中は、まるで僕を溶かすように熱くて、


 その唇から漏れる息や、

 思いつめた目から零れる涙や、


 「ルビ君……」


 甘えるように僕を呼ぶ声も――――――、



 「……全部、挿入はいったよ」

 そう言われて、極まって繰り返した細く小さな嗚咽も、



 何もかもが、閉じ込めたい程に愛おしい。


 呼吸が落ち着いて、この体勢から、どうすればいいのかと、千愛理が僕を見つめてきた。


 「――――――どうする?」

 きっと勘違いをしている筈の千愛理に、意地悪く、そんな問い方をする。


 「……え?」

 「続き、出来そう?」

 「――――――え?」


 何度か瞬きが繰り返されて、


 「続き……って――――――……?」

 「ここから先があるんだけど」

 「さ……先?」


 動揺している千愛理から上半身を離して、千愛理の両足をそれぞれの手で支えて、膝で立つ。

 そして、


 「……ぁ、」

 僕はゆっくりと腰を引き、そしてそろりと突き出した。


 まだまだきつい感じはするけれど、抽送は思ったよりもスムーズで、


 「あぁ……、や、まっ、……嘘……」

 眉間に皺が寄るあたり、まだ痛みは感じているようだけど、それだけじゃない可愛さが、時々混ざる。



 「キスして、千愛理」

 「ぁ、……ぃゃ、……ルビく」

 「ギュってして」

 「ルビ君……」


 懇願する僕の様子に何か気づいたのか、両足の拘束を解いて倒れ込んでくる僕を、千愛理が両腕を広げて迎えてくれた。


 きつく、抱き締めてもらって、新たな疼きが、一点に収束してくる。


 「……千愛、理……」


 激しい動きは、今日は要らない。
 自分の存在を主張するバロメーターのように、相手を何度もイかせようとするテクニックも要らない。


 ただ、

 千愛理の温もりと、

 彼女の中で擦れ合う感覚と、

 混ざり合う二人の香りに眩暈を覚えながら、


 齎される快楽を、その先を、


 千愛理で得たい――――――。



 「直ぐに、イくから、もう少しだけ、僕に、ちょうだい――――――……」

 「……ぅん」


 顔を真っ赤にした千愛理に、まだ不慣れなキスを何度も貰いながら、

 僕は初めて、"自分の欲望"を優先に、


 「は、……千愛理……ッ」


 コンドーム越しに、時間をかけて、震えるように精を吐き出していた。








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