小説:月光は降り積もる


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始まりの日04  「ちょ・・・やだな〜、リョウさん、ちょっと待ってくださいよ、今日はリョウさん達6代目の引退式と、新総長の襲名式の日ですよ? そんな」

 茶髪の人が、半笑いで言いかけたその言葉を、あの嫌な声が遮った。

 「は? だからだろうが。双月の姫ヤって終われるって、最高の花道じゃね?」

 クツクツと何人かの笑いが響く。

 「双月には煮え湯飲まされたからな。花村の野郎、向こうのマチだけでおわってりゃいいものを、こっちにまで手を広げてきやがって」

 カチ、と音がして、タバコの臭いが背後から漂ってきた。

 「下の連中には言わなくていいけどよ、幹部10人で攻めて、写真でも撮っときゃ、この女もおいそれと人には言えないだろうからな。けどなあ・・・」

 ふと、タバコの臭いが近くなったと思った、瞬間、

 「!」

 グイと顎を掴まれた。

 あたしを冷やかに見つめる三白眼の男。
 まるで、蛇のような印象だった。

 「鶏ガラみてぇな女。勃つかな、オレ」

 ククク、と何人かの笑いが広がる。


 嫌だ・・・。

 嫌悪感しか湧かない。

 「花村のヤツ、そうとう大事にしてるらしくてよ、まだ処女っつう噂だからな。まあ、ぶちこめばどうにかなるか」


 涙が、溢れてきた。


 気力が、もたないよ・・・。
 できれば、意識失って倒れたい―――――――


 そう、心が折れかけた時だった。

 「リョウさん、この女、俺にくださいよ」

 ・・・え!


 そう言ったのは、金髪の男だった。

 「ハッキリ言ってリョウさんじゃあヤり逃げになるじゃないですか。だって、この女が花村に言いつけたらマトになるのって今日からブラックホークスの総長引き継ぐこの俺ですよね?」

 「カズ・・・?」

 金髪の男の後ろに立つ黒髪の男が、怪訝に眉を顰めて小さく呼ぶ。



 「―――――ふうん?」


 リョウって呼ばれてる男は、あたしの傍で、長くタバコの煙を吐き出した。
 臭いが鼻から入ってきて、嘔吐感が湧いてくる。

 少しすると、ククとリョウが喉を鳴らした。

 「いいぜ? 襲名祝いにくれてやるよ」

 「・・・どうも」

 そのやり取りに、周囲からいくつかの舌打ちが鳴った。


 「た、だ、し」

 嫌な声が続く。

 「普段から女を寄せないお前がそんなこと言うってことはよ。オレからしたら仏心にしか見えねぇわな」

 「は?」

 金髪の、カズイと呼ばれた人が眉間を寄せた。

 「和以よぉ、オレもホークスの6代目だ。後にはひけねぇ。けど、譲歩はしてやるよ。―――――てめぇが選べよ。この女、俺ら全員にマワさせるか、お前が抱き潰すか」

 「リョウさん!」

 銀髪の人が、一歩踏み出して声を荒げた。

 「聖ひじり、うっるせぇよ」

 リョウの低い声に、

 「・・・くッ」

 ヒジリが顔を歪める。
 この中で、一番偉いのはリョウらしい。


 「―――――いいっすよ」


 「和以!」
 「和以・・・」
 「和以ッ」
 「カズ―――――」


 金髪のカズイが、数歩をかけてあたしに近寄って、片腕を強く引っ張った。
 無理やり立ち上がらされて、歩かされる。
 目指しているのは、さっきまであたしがいた、あのベッドがある部屋。


 嫌だ・・・、

 嫌だ・・・・・・・、


 嘘でしょ?


 「和以、オレは、確かめるぜ? 意味、わかるよなあ?」

 「・・・わかってますよ」

 「ドア、閉めんなよ」


 もう、わけわかんない。



 「リョウさん、俺を見縊ってますか?」

 さっきまでの声音とは全く違う低さで、カズイはその言葉を放った。
 耳鳴りがしそうなほどの沈黙が走る。

 恐る恐る視線をあげてカズイの様子を見ると、鋭い睨みでリョウという男を刺していた。

 「・・・チ、わかったよ! 終わったら呼べよ」


 「――――――歩け」

 カズイに押されて、部屋の中に入る。
 パタンとドアが閉められる瞬間、

 「7代目襲名、おめでとさん」

 嫌な声が、あたしの不安を後押しした。




 「―――――ベッドに座れ」

 薄暗い部屋の中、軽く突き飛ばされて、あたしはベッドに倒れこんだ。
 カズイに目を向けると、冷たい目線であたしを見下ろしている。


 「ッ!」

 座れって言われたんだった。

 これはどんな心理なんだろう。
 言うこと聞かなくちゃ、って、そんなプレッシャーを本能で感じる。

 肘を支えにしながら、どうにか座る体勢になって、・・・俯いた。


 「スズキ、ユイナ」

 刻むように呟かれたその名前に、あたしはハッとして首を振る。


 違うの、
 お願い、これ外して


 猿ぐつわさえ外してくれたら、人違いだって言えるのに――――――!


 (そうだ!)

 あたしは気づいた。

 そういうこと、するってことは、きっと、キスしようとするよね?


 そしたら、猿ぐつわ外してくれるはず・・・。

 「――――――姫なら、覚悟はしてただろ?」


 ・・・え?

 カズイの指が、あたしのシャツのリボンをプチンと器用に外した。

 「お前なら、もっと他にいい男いただろ? わざわざ、・・・族の男選びやがって」

 ブレザーが脱がされる。
 けど、縛られている後ろ手に引っかかるのは当然で、

 「動けなくなるまではそのままでいろ。暴れられたらたまんねぇ」


 ・・・え?

 シャツのボタンがどんどん外されていく。

 「悲鳴、聞く気ねぇから」

 ・・・ちょっと待って。

 外さない?
 外さないってことなの?

 嘘・・・、

 猿ぐつわ外してよ。
 そしたら、ほんとに人違いだってわかるから!


 ねえ、

 お願い、

 お願い、


 「んんッ! うぅ! ん〜んッ」

 いやいやと首を左右に振りながら、どうにか猿ぐつわを外そうとするけれど、痛いくらいに頬に食い込んでいるそれはビクともしない。

 「!」


 ドサ、と、

 ベッドに押し倒された。
 カズイが、あたしにかぶさるようにして体を重ねてきて、

 「んんッ!!」

 あたしの首筋を、カズイの熱い舌が、這い出した。

 ちゅ、ちゅ、とリップ音が響く。
 舌先が動いて、あたしが思わず身を捩ると、

 「ユイナ・・・」

 カズイがその名を呼んだ。


 ――――――違う!
 あたしは違う!

 乱暴にブラがずらされる。

 「んッ! うぅ!」

 カズイの舌が執拗に胸の先を舐めまわして、

 「ううぅぅ・・・」

 口惜しさと、嫌悪と、
 恥ずかしさと、悲しさと、

 いろんな感情が一気にあたしの心をあふれ出て、それをカズイに見せつけるよう、涙が一気に溢れてくる。







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