「ユイナ」 カズイの指があたしの髪を撫でる。 「ユイナ」 何度も何度も、錯覚しそうなほどにやわらかいキスが、肌に落ちる。 「ユイナ」 「・・・ッ、ぅ、」 あたしはユイナじゃない。 ユイナじゃない。 「ユイナ」 あたしはユナ。 ―――――ユナなんだよ。 自分の名前が、こんなに切ないなんて・・・。 涙が、とまらなかった。 初めては―――――、 "初体験"は、きっと彼氏の家だと思ってた。 年上だったら、素敵なホテルとかもありだよね、なんて。 見つめるだけで、胸がキュンってする人と、 恥ずかしいよ、恥ずかしくないよ、 そんな事をじゃれあって言い合いながら、 好きだよ、 愛してるよ そんな甘い言葉をたくさん囁かれて、やってくる痛みに耐えるんだ――――――って、 真由ちゃんに感化されて耳年増になっていたあたしは、そんなことをお気楽に想像してた。 「ううう・・・」 いつの間にか下着が脱がされてた。 「ッ!」 やだ、 やだ――――――ッ! 恥ずかしいところを、カズイの舌が動き回る。 どうして? どうして? こんなに嫌なのに、快感が体中を走り抜ける。 足を開くようにと押さえつけられて、ありえない格好をさせられて、 それなのに、水音が響くたびに、あたしの体に稲妻が走る。 「・・・ッ!」 一点から集中して脳まで走る快感に、ビクン、と震えたあたしの体。 反動で、背中に縛られたままブレザーとシャツに絡まった手首がかなり痛くて、 なんだかもう、 ―――――どうでもよくなった・・・。 「ユイナ」 自分の唇をペロリとなめながらあたしを見てきたカズイの眼差しは、こんな時に呆れるくらいに妖艶で、 「挿れる」 何かの包みを破いていた。 コン、ドーム・・・? ああ、本当に、やられちゃうんだ、 本当に・・・ 「うぅ、ううぅ・・・」 次から次へと涙が溢れてくる。 口の中の布もぐちゃぐちゃ、目の周りもぐちゃぐちゃ、 こんな、制服も半分着た格好で、 下着だけ脱ぎ取られて、 ギシ・・・ カズイの顔が近くにやってきて、 何かが、 そこに、 「・・・ッ!」 痛い! 痛い! 痛い! 痛い――――――ッ! やだ! 痛いよ! 「んんんッ! ンンンンンンッ!!!!」 激しく首を振る。 物凄い圧力が、あたしの中をめがけていた。 「・・・マジで、初めてか・・・」 籠もったカズイの声が、耳に障る。 「んんんんんんんんッ!!!!!!」 「もう、ちょっとだ」 「んんんんんんッ!!!!」 もうやめて! 痛い! 嫌っ! 中をハサミで切られているみたい・・・ッ! こんなのッ、こんなの――――――ッ、 「んんんッ、んんんんんッ!!!!」 (やだあああああああ、いやだあああッ) 心の叫びと比例して、ぶんぶん首を振るあたしの中に、容赦なく、カズイが奥まで入ってきた。 あたしの耳元で、カズイの乱れた呼吸が繰り返される。 腫れ上がったように感覚がマヒしたあたしの中に、居座る異物感。 「・・・」 終わり・・・? 終わったの・・・? これでやっと・・・、 帰れる? あたし帰れる――――――? 帰りたい・・・。 帰りたいよ・・・。 いつも一人で、 冷たくて寂しくて、 全然好きになれなかった部屋なのに、 こんなにも、あの部屋が恋しい・・・ 「・・・ッ、・・・ッ」 あたしは、嗚咽の欠片しか出せなかった。 「――――――動くぞ」 え? 終わりじゃないの? 動くって、 「・・・ッ!」 うそ・・・、 「ん、ん、ん」 抜き挿しが繰り返されるたび、圧迫されたあたしから、まるで逃げ道を探すような声が鼻から漏れる。 「はっ、・・・ユイナ」 「・・・」 「ユイナッ」 「・・・」 ゆさゆさゆさゆさ、体が揺れる。 「ユイナ」 カズイが、あたしの首筋に顔を埋めて、パンパンパンパン、一心不乱に動いてた。 そんな音、まるで他人事のように聞きながら、 「・・・」 あたしはただ、そんなカズイの肩の向こうに、ぼんやりと窓の外を見つめていた。 ここの窓のフレームには、ただ1つだけ、 欠けた月が光ってた―――――――。 |