―――――― ―――― 全身が、痛い―――――。 頭も、結構痛いかも・・・。 目を開けようとして、 「ユナ? 気づいたのか?」 「!」 その低い声に、あたしは心臓を跳ねさせた。 思わずギュッと目を閉じる。 この声は、カズイだ。 まだ、悪夢は続いてるんだ。 どうしよう・・・、 無意識に、喉が震えてきた。 あたしの初めてを奪われたあの日・・・、 あの夜から、あたしは、 窓の向こうで変わる空の色で確認する限り、約二日間、カズイに抱かれ続けた。 あたしは、気を失ったんだろうか? いっその事、死んでたら良かったのに―――――― 「ユナ・・・」 (・・・え?) 多分、カズイの手が、あたしの頭を撫でていた。 時々、指をとめる髪の絡まりを手櫛で梳いていて、 (ヤダ・・・) 嫌だ・・・ 恐怖心が、また体を震わせた。 あたしを貫いたあの痛みが、強く鮮明に蘇ってくる。 あたしの意思の欠片さえも無視して、 かぶさって押さえつけて、無理やり挿れられ続けられたあの暴力行為を思い出す。 「ユナ・・・?」 逃げなきゃ・・・ この手を、ふり払わなきゃ・・・ あたしの手は、もう、 "縛られていない―――――――" 今、あたしは縛られていない! それだけでも微かな希望のような気がして、喜びが湧く。 どうやって逃げよう。 どうやって立ち上がろう・・・。 ぐるぐると考えを巡らせていると、 コンコン。 ノックの音がした。 「入れ」 「おっじゃま〜」 「・・・戒(かい)か」 「ユナちゃんどうよ」 「ああ・・・」 「なに? どうしたん? お前の方が顔色悪いじゃん」 「・・・出よう」 「あぁ?」 カイという人が出した怪訝な声に、 「ひっ」 思わず、あたしの唇から声が漏れた。 「なんだ、ユナちゃん起きてんじゃん。入るぞ、和以」 「おい、戒!」 「ユッナちゃ〜ん」 あたしの名前が、直ぐ近くで呼ばれた。 「ほら、ユナちゃんの好きなブルーベリーパイ買ってきたからさ。早く起きて向こう行こう?」 「・・・ブルーベリー?」 ワケがわからないまま、恐る恐る、目を開ける。 そこにいたのは、茶髪の男の人だった。 「よ」 口調には少し似合わない大人びた容姿で、笑うと片目だけが細まって、まるでウィンクをしているような人懐こさが見える。 「ユナちゃんが好きなベーカリーのパイだよ。食欲わくでしょ?」 あたしの好きな・・・? それって、駅前の? 「―――――どうして?」 どうして知ってるの? 「ほら、早く。好きなモン食べれば元気でるでしょ?」 持っていた箱を開けて見せる。 焼きたての、甘いパイの香りが、この殺風景な部屋に広がっていく。 ・・・あれ? あたしは、違和感を感じて部屋を見回した。 ここって・・・最初に来た、・・・あの部屋だよね? あの時と違って日が高いから採光が効いてすごく明るい。 それだけだと思ってた。 だって、ベッドは同じだし、ドアの位置も同じ。 でも、―――――全然違う部屋みたい。 端の方に丸いスタンドテーブルがあって、そこに花瓶があって、大きなカサブランカが飾られていた。 そういえば・・・最初に感じた、タバコのあの嫌な臭いが、しない・・・? |