小説:月光は降り積もる


<月光は降り積もる 目次へ>



目覚めた日01
 ――――――
 ――――

 全身が、痛い―――――。

 頭も、結構痛いかも・・・。


 目を開けようとして、


 「ユナ? 気づいたのか?」

 「!」


 その低い声に、あたしは心臓を跳ねさせた。
 思わずギュッと目を閉じる。

 この声は、カズイだ。
 まだ、悪夢は続いてるんだ。

 どうしよう・・・、


 無意識に、喉が震えてきた。



 あたしの初めてを奪われたあの日・・・、

 あの夜から、あたしは、
 窓の向こうで変わる空の色で確認する限り、約二日間、カズイに抱かれ続けた。

 あたしは、気を失ったんだろうか?

 いっその事、死んでたら良かったのに――――――



 「ユナ・・・」

 (・・・え?)

 多分、カズイの手が、あたしの頭を撫でていた。
 時々、指をとめる髪の絡まりを手櫛で梳いていて、


 (ヤダ・・・)

 嫌だ・・・

 恐怖心が、また体を震わせた。


 あたしを貫いたあの痛みが、強く鮮明に蘇ってくる。

 あたしの意思の欠片さえも無視して、
 かぶさって押さえつけて、無理やり挿れられ続けられたあの暴力行為を思い出す。

 「ユナ・・・?」

 逃げなきゃ・・・

 この手を、ふり払わなきゃ・・・


 あたしの手は、もう、

 "縛られていない―――――――"


 今、あたしは縛られていない!


 それだけでも微かな希望のような気がして、喜びが湧く。

 どうやって逃げよう。
 どうやって立ち上がろう・・・。

 ぐるぐると考えを巡らせていると、


 コンコン。

 ノックの音がした。


 「入れ」

 「おっじゃま〜」

 「・・・戒(かい)か」

 「ユナちゃんどうよ」

 「ああ・・・」

 「なに? どうしたん? お前の方が顔色悪いじゃん」

 「・・・出よう」

 「あぁ?」


 カイという人が出した怪訝な声に、


 「ひっ」

 思わず、あたしの唇から声が漏れた。


 「なんだ、ユナちゃん起きてんじゃん。入るぞ、和以」

 「おい、戒!」

 「ユッナちゃ〜ん」


 あたしの名前が、直ぐ近くで呼ばれた。

 「ほら、ユナちゃんの好きなブルーベリーパイ買ってきたからさ。早く起きて向こう行こう?」

 「・・・ブルーベリー?」

 ワケがわからないまま、恐る恐る、目を開ける。
 そこにいたのは、茶髪の男の人だった。

 「よ」

 口調には少し似合わない大人びた容姿で、笑うと片目だけが細まって、まるでウィンクをしているような人懐こさが見える。

 「ユナちゃんが好きなベーカリーのパイだよ。食欲わくでしょ?」

 あたしの好きな・・・?
 それって、駅前の?

 「―――――どうして?」

 どうして知ってるの?

 「ほら、早く。好きなモン食べれば元気でるでしょ?」

 持っていた箱を開けて見せる。
 焼きたての、甘いパイの香りが、この殺風景な部屋に広がっていく。


 ・・・あれ?

 あたしは、違和感を感じて部屋を見回した。

 ここって・・・最初に来た、・・・あの部屋だよね?

 あの時と違って日が高いから採光が効いてすごく明るい。
 それだけだと思ってた。
 だって、ベッドは同じだし、ドアの位置も同じ。

 でも、―――――全然違う部屋みたい。

 端の方に丸いスタンドテーブルがあって、そこに花瓶があって、大きなカサブランカが飾られていた。

 そういえば・・・最初に感じた、タバコのあの嫌な臭いが、しない・・・?








著作権について、下部に明記しておりマス。



イチ香(カ)の書いた物語の著作権は、イチ香(カ)にありマス。ウェブ上に公開しておりマスが、権利は放棄しておりマセン。詳しくは「こちら」をお読みくだサイ。