あたしが必死に思考を動かしていると、 「ユナ姫、起きたのか?」 また、ドアから別の声が聞こえた。 ドアにもたれて立っているカズイの隣に姿を現したのは、黒髪の綺麗な男の人。 軽くウェーブしているその濡れたような漆黒の髪をかきあげながら、フェロモンをむき出しに微笑んでいる。 「どうした? 起きてるなら早く来いよ」 「え? ユナっち起きてんの? 早く来たらいいのに」 それを追うように、また新たな男の、子。 艶々のダークブラウンの髪が、サラサラ揺れて、すごく可愛い顔立ち。 「巫琴(みこと)もミサオもうるさいって。結奈ちゃん、一応怪我人なんだからさ〜」 そう言いながら、カイがあたしの頭に手を乗せようと、した。 「やッ!」 ビクッと体が反応する。 ぴたりと、カイの動きが止まった。 「え・・・、―――――結奈ちゃん?」 カイの表情が、みるみるうちに暗くなった。 「――――あ、ごめ、な」 どうしよう、機嫌、良さそうだったのに、これで怒らせたら、もしかして、また―――――、 蘇ってくるどうしようもない怖さに、唇の震えが隠せなかった。 「ご、め・・・さ」 謝罪が、うまく言葉にできない。 「え? ちょ、結奈ちゃん、どうし」 カイの手が、再びあたしに伸びてくる。 (・・・やだ!) あたしはギュッと、強く目を閉じた。 「触るな、戒!」 (え・・・?) それは、カズイの声で。 「それは俺のだ。触るんじゃねぇ」 低い声で、通告するようにはっきりと綴られたその言葉。 それは、俺の。 ソレ、 ――――――ソレって、 ・・・あたしはモノじゃないのに。 胸が、苦しくなるほどの悲しみが湧き上がってくる。 「ちょっとちょっと〜、なに今更そんなわかりきったこと言って、」 「戒」 お道化たカイを制するように、また新たな声。 そっとドアの方を見ると、銀髪の、全体の雰囲気が透明な人がいた。 あの人の、顔は知ってる。 あたしが連れてこられたあの日、リョウって人に、一番食って掛かってた人だ・・・。 確か―――――、 「聖」 あたしが思い出すよりも先に、カズイが呼んだ。 そう。 ヒジリだ。 「・・・わかってるよ、和以」 ヒジリが、そう応えながら、しばらくの間あたしに向けていた視線を、ゆっくりとカズイにやった。 そして、神妙に告げる。 「あの時と、同じ顔してる」 「・・・ああ」 俯くカズイ。 ―――――――"あの時"? 疑問に思いながらも、聞き返すこともできないあたしは、ただ静かに、事の成り行きを見守っていた。 ヒジリが、何か考えるような表情をして、ふと顔をあげる。 「戒、こっちに来て」 「え、でも、聖・・・?」 「戒?」 「・・・うん」 行動を促すように命令調で名を呼ばれて、カイはベッドから、・・・つまりあたしから、ゆっくりと離れていく。 部屋から出されることを呑み込んだカイが、不意に振り返ってあたしに言った。 「パイ、ちゃんと残しておくからね?」 ―――――なんで? どうして? あたしにあんな事したカズイの仲間なのに、なんでそんな普通の態度をとれるの? 無神経なのか、罪悪感がないのか、 それとも・・・大した事じゃないって、そう思ってるの? ぐるぐると考えている内に、そのドアが閉められ、不気味な沈黙が部屋を漂う。 ということは、 「・・・あ」 弾かれたように、ドアの方を見た。 やっぱり・・・、 カズイが、まっすぐにあたしを見つめている。 この部屋に、この人と2人きり・・・。 逃げたい・・・。 体を起こそうと、身を捩った途端、 「痛(つ)ぅ」 激痛が、あちこちから堰を切ったように走り出した。 「ユナ」 名前を呼ばれて、ドクンと心臓が鳴った。 「いま、どこまで理解してる?」 「・・・え?」 なんて答えていいのかわからずに茫然としていると、カズイが舌打ちをした。 危険回避の本能なのか、慌てたあたしの口がペラペラと語りだす。 「あ、が、学校の帰りに誰かに攫われて、そ、それから、この部屋で、あの、あ、あなたと、あの、」 カズイから、深いため息が漏れた。 「めんどくせぇ」 「え?」 「ユナ」 カズイが、ゆっくりとあたしに近づいてきた。 「体に訊く」 「あ・・・」 ベッドに身を乗せてきたカズイ。 四つん這いであたしの体に乗りかかって、 「手、かせ」 あたしの両手首が、頭の上で、カズイの片手に楽々と固定された。 |