小説:月光は降り積もる


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目覚めた日02


 「やだ、やめ」

 さっきまでとは違う。
 猿ぐつわが外されているから、言いたくても言えなかった拒否の言葉が、喜びのように放たれる。

 言える、

 言えるんだ、


 今なら、


 「お願い、やめて!」

 「うるせぇ」

 「やめてください!!」

 「おい」

 カズイが、鋭い目線をあたしに落とした。

 「先に口に突っ込まれてぇのか?」

 「!」

 「暴れると、初日みたいに縛り上げるぞ」

 「あ・・・!」

 あたしは、洪水のように蘇ってきたあの初めての日の記憶から、そのパーツを拾い上げる。
 ずっと、後ろ手に縛られていた。
 カズイが体重をかけてあたしの上に乗る間も、手首は痺れて擦れて、かなり痛くて・・・。

 あの時、手首にはたくさんの擦り傷ができて、確か、血も滲んでた。


 殴られたりはなかったけど、全身で押さえつけられて、無理やりされたんだ。

 何度も、何度も――――――。

 二日目に入る頃には、抵抗する気力も無くて、出る声も、投げやりに垂れ流しだった。
 それを思い出した体が、硬直して動きを止める。

 「・・・いい子だ」

 脱力したたあたしの上で、カズイが鼻で笑った。
 金髪の毛先があたしの頬をくすぐって、

 ああ、キス、してるんだ・・・。

 これがファーストキス?


 どうだっけ・・・、

 覚えてない。

 「・・・はぅ」


 ちゅちゅ、ちゅちゅ、

 舌が絡んで、舌を吸われて、唾液が混ざる音がする。

 あたしは、まるで人形のように、抵抗はせず、ただ口を開けて、カズイの舌にされるがままに舐められてた。
 嫌悪感はふつふつと湧いていたけれど、それ以上に、縛られたり、猿ぐつわされたりという記憶の恐怖が勝っていた。

 時間をかけてあたしの全身を動物みたいに舐めまくったカズイは、手慣れた感じでゴムをつけて、
 あたしの中に、ゆっくりと挿入(はい)ってくる。

 「あ」

 なんで?


 嫌だ・・・、

 嫌だ――――――!


 さっきまでは、我慢できた。



 できたのに、


 「あぁ、ぅ、はぁ、んぁ」

 体を擽るような快感が、
 あたしを支配するカズイによって齎される行為の結果の快楽が、どんなに声を抑えようとしても、

 「ああ、ん、あッ」

 「余計なこと考えずにイケよ」

 行為の激しさと反比例するような単調な声音。

 (イク? ・・・なに?)

 戸惑っている内に、

 「あ、あぁ!」

 大波のような痺れが、脳の奥からつま先まで駆け抜ける。
 自分の体なのに、制御できないほど痙攣して、

 「く・・・ッ」

 カズイが、苦しそうな声を出した。


 どうしてこんなに・・・、
 どうしてこんなに気持ちいいの?

 心はこんなに拒否しているのに、体が、まるで別のものみたい。
 出てしまう高い声を認めたくない。

 認めたくない。

 認めたくない!

 認めたくない―――――――!








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