小説:虹の橋の向こうに


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⌒ 反射虹 : 篤

 ――――――
 ――――



 「あ〜・・・、まだ好きって言われてないんだ」



 俺の言葉に、まるで追い討ちをかけられたかのように頭を抱えてテーブルに項垂れるレント君。

 「おっとと〜」

 レント君の赤茶の髪がかかってしまいそうなポテトとナゲットを慌てて避難、避難。

 俯せて、目だけで俺を見上げて来るレントは、そんな姿も周囲の女の子の視線をかき集めてる。
 本人にその気は無くても、知らず知らずのうちにおモテになるのは保育園の時から変わってない。
 焦げ茶色の瞳でレントに見上げられた女は、同級生をはじめ、先生も、保護者も、異性(一部同性も)は全部、メロメロだった。


 ――――――かくいう俺も、断じてホモっ気は無いけれど、親友レント君にはすこぶる弱い。

 振られた理由に、

 "篤君って、レント君の話ばっかりね"

 なんてのもあったのは、本人にも告げて二人で大爆笑した。


 「―――――で?」

 促しながら、俺もテーブルに顎を乗せて、レントと近い目線にする。

 「で、って?」

 「だぁかぁらぁ、クリスマス。やっぱポイントはそこでしょ?」

 「・・・ん」

 どこか、遠くに気をやる目。
 左手の小指にはめたピンキーリングを、親指でクルクルと回している。

 「一応・・・指輪買った」

 「――――――マジで?」


 レント君。

 指輪・・・悪くは無いとは思うけど・・・。

 付き合って間もなくて、しかも"好き"すら言ってもらえてなくて・・・、
 そんな相手に指輪とか・・・、美織ん、ドン引かないか?


 ・・・かなり心配なんですけど、お兄さんは。


 そんな俺の心の声を察知したのか、


 「・・・ピンキーリング」

 「――――――あ、そっちね」

 呟くように漏らしたレントの言葉に、思わずホッと息をつく。

 薬指のガチかと思った。


 「あ〜、うん。いいんじゃない? ピンキー」

 「・・・」


 なんか、まだ眉間が寄ってる。

 「なによ、まだ他に心配事?」

 ちょっと雰囲気を読んで、真面目な声音で尋ねた俺に、レントがスッと身体を起こした。


 「あの後さ・・・」

 「あの後?」

 「エミに詰め寄られた美織、追いかけた時」

 「ああ、うん」


 神的タイミングで美織んを泣かしちゃったらしいエミっちは、あれから一週間、円のテリトリーに姿を現していない。

 あの子も、自分の欲求に素直なトコは、まぁ可愛いんだけどねぇ。
 他の子を傷つけちゃ、まず人として駄目でしょ。


 「オレ、美織と話した時、・・・恋は二度目だって、気づいたら口にしてて」

 「うん。――――――で? 何でそれがそんな深刻?」


 正直、レントに過去が1人だけって、これ、かなりの奇跡だよね?

 俺がレントなら、どっかのバカが言ってたように、3桁狙って"誠実に"活動してたと思う。
 言ったら殴られるだろうから、口にはしないけど。


 「美織んも2度目だし、ちょうど良いんじゃないの?」

 「・・・一緒なんだよ、特進科」

 「・・・あ、そういう事」


 狭間萌奈。

 レントの元カノで、俺の幼馴染でもあり、現在、大宮女子高校の特進科の生徒。
 特進科は1学年1クラスしかないから、つまり現在、元カノと今カノが、間違いなく同じクラスってワケだ。

 「哲の事もさ、黙ってたって事で、ちょっと微妙になりかけたばっかなのにさ」

 「あ〜、確かに、またプラスで微妙かもね〜」

 「言うタイミング、すっげぇ難しい気がする・・・」

 「・・・せめて、"好き"って言質、とった後じゃないとねぇ」


 意地悪っぽく、クスクスと笑って見せると、さすがにレントはムッとした顔で俺を睨んできて、

 「――――――か、クリスマス、一気にモノにしちゃってから?」

 続けてそんな悪態をついた俺に、明らかに、レントの目に怒りが生まれた。

 「篤、すっげぇ気分悪ぃ、オレ」

 「だろうねぇ」

 「・・・」

 「わざとだもん」

 ニヤリと笑う俺に、レントが怪訝そうに眉を顰めた。

 「・・・――――――レント君さぁ」

 まだ氷が十分に残っているコーラを飲んで、俺は改めてそれを告げる。


 「それもやっぱり、スカーフを掴むって事なんだよ」

 「―――――え?」

 「萌奈の時もさ、あのバレンタインの日、遠野に連れ去られる萌奈の幸せを祈るなんて、良いカッコしないで、好きだから別れたくないって、叫んでたら、何かが変わったかもね」

 「・・・」

 「スカーフが舞い降りたあの日、四の五の考えずにレントが美織んの腕取ってれば、もっと何かが変わってたかも」

 ゆっくりと、レントの目が、瞬きを繰り返した。

 「タイミングが、とか、今は微妙、とか、――――――いつになったらさ、レントはオンタイムで自分の気持ち、優先してぶつけるの?」

 「篤・・・、お前・・・」

 レントの焦げ茶色の眼が、次第に見開かれていく。

 いや、別に開眼促したわけじゃ無いから、そんな真っ直ぐな目で見るの、マジやめて。


 ――――――愛でたくなる。

 くそぉ、なんでこいつ、こんなに犬系なんだよ。

 いちいちツボ。
 ガキの頃からマジで降参。


 ガタン、

 立ち上がったレントが、俺の両肩をがっしりと掴む。


 「サンキュ、篤。ちょっと行ってくる」

 「・・・あ?」

 「美織んトコ」


 今から?

 と口に出かかったけど、レントの顔は、なんだかスッキリしていて、


 「――――――はいはい」


 ヒラヒラと手を振ってお見送り。

 すると、

 「あ、篤」

 席を離れかけたレントが、クルリと俺を振り返った。



 「"美織ん"って呼ぶの、禁止」

 「・・・え、じゃあ"美織"?」

 「・・・」

 「―――――冗談、冗談」


 今までで一番怖い顔された。


 "萌奈"の時は、気にした事なんか、無かったのに――――――。


 それは、俺が萌奈と幼馴染だから?

 ――――――それとも・・・。




 長虹橋の方へと走って行くレントの後姿をファストフード店の窓からぼんやりと眺めながら、

 「あ〜、俺も、そろそろ誰か探そ」

 背もたれに体重を預けて、思いっきり伸びをする。



 クリスマスまで2週間弱。

 今度の子は、バレンタインくらいまでは持ちそうな子がいいなぁ。


 いつもの放課後、同じ寄り道の筈なのに、


 クリスマスデコレーションで華やいで見えるいつもの街並みを、少しだけ新しい気持ちで、見つめていた。








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