小説:虹の橋の向こうに


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∬二重虹∬ : 美織

 ――――――
 ―――――


 「あのね、レント君。・・・話が、あるの」



 初めて、あたしから電話をかけて、

 初めて、あたしからレント君を呼び出したのは、煌君に会ったその次の日。
 ちょうど水曜日で、レント君のバイトが休みの日・・・。

 いつもならレント君がメールをくれて、
 待ち合わせはこの長虹橋の入り口か、大宮女子近くのファストフード店で、


 ・・・これまで、レント君が円の街においでって言わなかったのは、哲君の事を知っていたからなんだって、

 いつ呼び出されるかって、ほんとは凄く緊張してたから、どうして一度もそんな事態にならなかったのか、やっと謎が解けた。


 あたしが、円の方に橋を渡れない事を、きっとレント君は気づいていたんだ。


 しばらくすると、ここから見ると副虹にあたるその最後の紫に向かって、学ランに黒いコートを羽織ったレント君が歩いて来るのがはっきりと見えた。

 同じような背格好の人は他にもいるのに、あたしには直ぐに、レント君だとはっきりとわかる。

 なんだか嬉しくなって思わず見つめ続けたそのレント君が、あたしの姿を見つけるなり、大きく手を挙げて合図をしながら小走りになった。

 「あ」

 あたしは慌ててリダイヤルでコールする。



 『・・・美織? どう、したの・・・?』

 その表情までは見えないけれど、スマホを耳にしたレント君の小さな姿が、あたしの方を向いて硬直したのが見て判った。

 「あの・・・あのね」

 早く、

 早く言わなくちゃ――――――・・・。


 二人が立つこの長虹橋の、主虹と副虹。
 並んで浮かぶその虹を見たら幸せになれるっていう、ダブルレインボーのジンクスを信じて――――――・・・、


 ・・・ううん。

 それ以前に、


 あたしは、レント君を信じたいの――――――。

 「あ・・・」

 そう思うのに、色んな気持ちが湧き出てきて、なのになかなか言葉は出てこなくて、

 「あの、」

 もう一歩、勇気が足りなかったあたしの言葉を待てずに、レント君の声が先に耳に響く。

 『・・・嫌だ』

 「――――――え?」


 一瞬、何を言われたのか解らなかった。


 『―――――絶対に嫌だから、オレ』

 「あの、」

 『もっと、もうちょっと時間が欲しい。バレンタイン・・・せめて来週のクリスマスまで』

 「レントく」

 『その間に、絶対に美織の心掴めるようにするから』


 ――――――え?


 『少しでも好きになってもらえるように、もっと頑張るから』

 「・・・」

 『だから美、』


 その必死の声に、


 「無理だよ――――――」


 胸がいっぱいになって、涙がぽろぽろと零れてくる。



 『・・・美織?』

 「もう、無理だから――――――」

 『・・・ッ』

 スマホの向こうで、レント君が、苦しそうに息を吸い込む音がした。


 「これ以上は、無理」


 ねぇ、レント君。


 「こんなに、こんなに、」


 ねぇ、レント君、


 「胸が潰れそうなくらい」


 ほんとに、ほんとに、


 「あたしはもう、レント君の事が、大好きだよ――――――」








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