―――――― ―――― 「柏崎せんぱーい、ご卒業おめでとうございます〜」 「おめでとうございます〜」 「美織先輩! おめでとうございま〜す」 人懐っこく駆け寄ってきて、花束を渡してくれるのは1年生の子達。 「あ、ありがとう」 「大学行っても頑張ってくださいね」 「応援してま〜す」 「藤森さんとも、仲良く続いてくださいね〜」 「あ、う・・・うん」 レント君の事を言われると、直ぐに顔が赤くなるのを、あたしはまだまだ止められない。 「はぁ〜、なんだか大宮の"赤"も雰囲気変わったわね」 赤のスカーフを翻しながら、次のお目当ての先輩へと駆け出して行った後輩達を見送るその瑠璃ちゃんの言葉に、萌奈ちゃんが笑う。 「美織ちゃんのおかげじゃない? レントとのラブラブっぷりはこの辺りで有名だし、そのおかげで、勉強は好きだけど、恋に厳しいのは嫌だって敬遠され続けてた特進科の倍率が跳ね上がったって聞いたもん。あの子達、ちょうどそれで入学してきた学年だし」 「え!」 あたしは慌てて反論した。 「違うよ。倍率が上がったのは瑠璃ちゃんが普通科の子達と仲良くし始めたからでしょ? "赤"とか"白"とか、そういう女子特有の空気の評判が、よその街ではあまり良くなかったって、だから、きっと瑠璃ちゃんの功労賞ねってママも言ってたし」 「それもありよねぇ?」 うんうんと頷く瑠璃ちゃんに、 「・・・」 「・・・」 「・・・何よ」 3人で顔を見合わせて、同時にぷっと吹き出した。 卒業の式典後、校門に向けて歩き出す卒業生を遠巻きに、後輩達、保護者が溢れている校内の歩道に、あたし達の笑い声が響き渡る。 しんみり涙を浮かべてたのはほんの30分前までの事なのに、一頻り笑うと、なんだか溌剌とした気持ちになった。 あっという間だった高校3年間。 悲しかった時や、寂しかった時、時間って、どうしてこんなにゆっくりと勿体ぶって進むんだろうって疎ましく思った事もあったけれど、 日常に素敵なピースが揃い始めると、卒業まで、ほんの一瞬だったような気がする。 特にレント君と付き合い始めてからは、倍速処理された気分。 そして明日からは、みんなそれぞれの、新しい世界に進んでいくんだ――――――。 「萌奈は来週だっけ? 引っ越し」 「うん。寮だから荷造りは洋服と身の回りのものくらいだし、もうほとんど身一つで乗り込む予定」 「女子大の寮か〜。響き、なんかいいよね。あたしも女子大が良かったかな〜」 「瑠璃ちゃんはそのままだよね」 「そ。うちの大学、電車で行けちゃうから。わざわざアパート借りるのももったいないし、実際通ってみて、体力ヤバそうだったらその時に考えようかなって」 ぼんやりと、二人の会話を聞いていたあたしは、 「美織は、――――――明日には成田だよね?」 瑠璃ちゃんに突然、話題を振られて、 「――――――う・・・、うん」 挙動不審に答える羽目になってしまう。 「なんていうか――――――」 ポン、と。 真剣な表情をした瑠璃ちゃんの手が、あたしの肩に乗せられた。 「いろいろと、検討を祈る」 どんな意味が込められているのか、あたし達の間だからこそ理解出来るその言葉に、 「・・・る、瑠璃ちゃん・・・ッ」 段々と、顔が火照っていくのが自分でも判る。 「もう瑠璃ちゃん。美織ちゃんが可愛そうだよ」 花束の間を縫って、パタパタと手で仰ぎながら風を送ってくれる萌奈ちゃんも、やっぱりクスクスと笑っていて、 「何言ってるのよ。あたしはここ1年、藤森レントをなかなか見直したから、この件に関しては、がぜん藤森派。美織だって、そのつもりで一緒に行くって応えたんでしょ?」 「・・・うん――――」 小さくだけど、YESとして頷いたあたしに、2人も嬉しそうに頷き返してくれる。 「ほら。やっぱり、検討を祈る、よ」 「素敵な時間になるといいね」 二人の言葉に、 「うん」 あたしは、両手で抱えていた花束を、持て余す熱を込めるように、強く、抱きしめていた。 |