小説:虹の橋の向こうに


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⌒ 月虹 : レント


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 卒業式の翌日の夜。

 オレと美織を乗せて成田を飛び立った飛行機は、現地時間、当日の朝に、無事ホノルル空港に到着して、


 「ホテルのリムジンバスが空港まで来るから、荷物だけ先に預けて、今日は夕方までトロリーで市内を観光しようと思ってるんだけど、いい?」

 「うん」

 「良かった。アラモアナにも停車するから、買い物の下見も出来るよ」

 「ほんと?」

 「決めておいて、最終日に、空港に行く前に一気に買おうね」

 「うん。良かった。絶対に何を買うか迷っちゃうから」

 「美織はね」

 「ひどい」

 少し拗ねたように口を尖らさせる美織の声は、飛行機に乗る前から普段より少し高い気がする。

 「そういうレント君は、全部マカダミアナッツにする気でしょう?」

 「さすが美織。よくわかったね」

 「もう!」

 やっぱり気のせいじゃない。
 いつもよりはしゃいだ様子に、オレはかなり嬉しくなって、美織のその左手を、指を絡めてきっちりと握り締めた。
 この1年ですっかり馴染んだ手のその小指には、オレが一昨年のクリスマスに贈ったミンサー柄のピンキーリングがはまっていて、最近の美織は、オレと手を繋いでいない時、この指輪を回すのがクセになっている。
 つまり、無意識の一部になっているという事。



 「レント君・・・? どうしたの?」

 無言になってしまっていたオレを上目で見つめてきた美織が、少し表情を翳らせる。
 その顔もまた可愛くて、

 「なんか、色々楽しみで」

 そう言ったオレに、

 「えッ!?」

 何を想像したのか、顔を真っ赤にした美織はますますオレをキュンとさせる。


 ほんと、色々やばいかも――――――。

 「・・・短いけど、3日間、思いっきり楽しもうな」

 調子に乗って、腕を引き寄せるようにして美織の耳元で囁くと、

 「――――――うん」

 恥ずかしそうに頷いた美織は、

 (・・・ああ、もう、本気でやばい)

 オレの腰を溶かすくらいに、可愛かった。






 「――――――あ、来た、多分あれだ」

 ホテルの名前が入ったリムジンバスが停留所へと入ってくるのを見つけて、足元においていたスーツケース2個のハンドルをそれぞれの手に取る。

 「荷物、預けてくるからちょっと待ってて」

 結構旅行慣れしているらしい美織はスーツケースもオレと同じ中くらいのもので、引かなくても一気に持ち運び出来そうだ。

 一歩進みかけて、ふと、美織の表情に気が付いた。

 バスを見て、目を瞬かせながらも、明らかに動きを固めている。


 「・・・美織?」

 「えッ!? あ、・・・ううん。なんでもない。なんか、凄く新しいバスだなぁって」

 紺色をベースに、ハワイ特有の虹のデザインが施されたバスは、確かにまだ真新しい。

 「うん。去年オープンしたばかりのホテルらしいから」

 「・・・そう、なんだ・・・」

 何となく、困ったような表情が見えた気がしたんだけど、

 「―――――ぇっと、新しいホテルならきっと綺麗だよね! 部屋からの景色も綺麗だといいね〜」


 ――――――部屋・・・か。


 「・・・? どうしたの? レント君」

 「・・・あ、――――――うん。なんでもない」

 覗きこむ美織に目を細めて、

 「預けてくる」

 オレは思考を振り切るように、スーツケースを持ち上げた。








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