小説:虹の橋の向こうに


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⌒ 月虹 : 美織


 「あたしもう、レント君のお嫁さんになれないんだって、凄くすごく、悲しかったよ――――――」


 それを呟いて、一体からどれくらい時間が過ぎたのか・・・。

 自分がどんな大胆なセリフを口にしたのか、理解が進むたびに、じんわりと肌に汗が浮かんでくる。


 驚き過ぎたのか、レント君の腕が次第に緩んできて、

 そのリアクションが良い意味なのか、悪い意味なのか、後ろにいるから全然わからない。


 「美織、――――――それって・・・」

 レント君の声が途切れ途切れに掠れていて、

 それがあたしには、凄く困っているようにも聞こえて――――――・・・。


 「あの・・・」


 どうしよう、


 「違うの」


 こんな困らせるタイミングで、言うつもりは無くて、


 「今じゃなくて、――――――あ、ちが、」


 ――――――そうじゃなくて、


 「あの、」


 やだ、


 「ミンサーの」


 泣きそうになる。


 「そうなればいいなって・・・」


 あたしの、


 「ただ思っただけだか・・・ら・・・」


 ――――――え?


 最後まで綺麗に紡げなかったのは、あたしに絡んでいたレント君の両腕が、突然にスルリと放されたからで、



 ドキリと、胸が痛く打つ。

 お嫁さん、なんて、
 もしかして、重いって思われたのかな――――――?


 振り向く事も出来ずに、暫くの間、ただ茫然と立ち尽くしていると、


 ジャリ、と砂を踏み締める音がして、


 「顔、見せて、美織」

 気が付けば隣に立っていたレント君が、あたしの顔を覗き込むようにして身を屈めていた。


 「レント君・・・?」

 あたしが、眉尻を下げたのは、
 夕日を浴びたレント君の綺麗な顔が、何だか泣きそうに歪んでいたからで、


 ――――――ううん。

 その瞳は、まるで海のようにキラキラと光を反射させているから、


 「泣いてる・・・の?」

 あたしの問いに、レント君は、小さく頷く。

 真横から差してくるオレンジの光が、レント君のサイドのメッシュを黄金色に煌めかせていて、そんなレント君の右手が、そっとあたしの左頬に触れた。


 「美織、・・・ミンサー織で、何を思った?」

 「・・・え?」


 ミンサー織で・・・、


 思いを馳せると、あたしにも、じわりと涙が浮かんでしまう。
 いつかレント君に貰った左手の小指の指輪を、何度も何度もクルクルと回して、どうにか気を落ち着かせようと努力をしたけれど、

 「・・・」

 「美織?」

 レント君の親指が、強めに頬をなぞってくる。



 『美織だけが知ってるレント君を、最後まで信じなさい』


 蘇ってきたママの言葉。


 そして、


 レント君と培っているこの恋を、誇らしいと思えたあたしの事。
 二人で育ててきたこの恋が、とっても愛おしいと思えた事。


 レント君を想う気持ちが、"愛"なんじゃないかって感じた事、

 「あたし・・・」

 レント君を信じたいと祈って、長虹橋で勇気を出した、あたしの事――――――。


 「あたしね・・・」

 「うん」


 あたしを見つめるレント君の眼差しが、優しく"おいで"って、手招きしてる。


 「・・・いつか」

 「うん」

 「お嫁さんになれたらいいなって思ったの・・・」


 いつも、あたしを一番に考えて行動してくれるレント君の、


 「" いつ までも"じゃなくて、" いつ か、レント君のお めさんに"って、そう、思ったの」

 「美織・・・」

 「ごめんね」


 思い切って打ち明けたら、なんだかとっても泣きたい気持ちになって、


 悲しいんじゃない。

 こうして、伝えられた事が幸せで泣けちゃったんだって、


 笑顔で、

 ただ黙ってあたしの涙を拭ってくれたレント君なら、きっと何も言わなくても分かってくれてるって、



 そう思った――――――。








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