小説:その赤い実を食べたなら


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靴下の中の女の子、タチ

 『篤君!あたしと付き合って!』

 一度もクラスになった事がない女子にそう言われ、初めて女の子と"お付き合い"をしたのは中3の時。

 ・・・正直に言うと、既に童貞じゃありませんでした、はい。

 保育園からずっと一緒だった親友のレントと、家が近所で親同士の付き合いが深かった俺の幼馴染の萌奈が、初めて同じ学校になった中1の頃から付き合い出して、本当に自然にセックスをする関係になったのは中2の時。

 『早いかな、とは思ったんだけどさ、・・・なんか、好きって、そういった欲望とは全然別のトコで気持ちが抑えきれなくて、泣きたいくらい、オレだけのものしたいって、思ったんだ』

 その気になれば女の子なんか右から左に流せちゃうような容姿をしながら、一人に純愛を注ぎ続ける、尊敬すべき親友に、

 『ふうん』

 ちょっと、憧れなんか抱いちゃったりして、

 『篤、アタシが教えてあげよっか?』

 彼氏に二股をかけられた挙句、結局は捨てられて自暴自棄になっていた5つ年上の萌絵、――――――はい、萌奈の姉ちゃんに、ほとんど八つ当たりのように手解きを受けまして、

 ――――――まあ、俺も興味あったし、ギブ&テイクとはこの事だと、子供ながら、そんな建前を押し出して青春真っ只中の好奇心を正当化した。



 初めてヤッた感想。

 やば、気持ちイイ。



 セックスってかなり気持ち良い。

 そりゃそうだよね。

 人間の特権、オーガズム・セックス。



 でも男女ともに、それぞれの持ちモノって、結構グロいよね。

 可愛い、とか、美味しそう、とか。
 そんなセリフ、AVでよく使ってるけど、見慣れて、抵抗無く舐めれるようになるまで、結構かかったぞ、俺は。

 克服できたのは ひとえ に、敏感で、喘ぎ声の可愛かった萌絵のおかげ。

 正直言って、男は中に入れてコスって出せればそれが全て。

 そこに至るまでの前戯で女の子に色々してあげるのは、相手の普段は見れない"そういう顔"が見たいからだし、腕の中の女の子を何度もイかせられるのは男の 矜持 プライド みたいなモンだし、やっぱり極限まで感じてる時の中の具合は全然違うし。

 そういうのを全部教えてくれたのも萌絵だった。

 持ちつ持たれつで数か月続いた俺達の関係は、萌絵が合コンで彼氏をゲットした途端に終了のベルが鳴らされて、その1年後、短大を卒業と同時に結婚したのは超驚き。

 "はい、招待状。来てね"

 "まぁ、いいですけど・・・ねぇ?"

 親戚でもない俺を、にっこり笑って式に参列させた萌絵の精神力に、

 "凄ぇ・・・"

 女は元来強い生き物なんだと、根底からじんわり学んだ気がする。

 "浮気はダメだよ、篤。ちゃんと、真面目に相手を見てあげてね"

 俺の頬に手を当てて、お姉さんぶった微笑みは、ああ、好きだったな――――――と感傷めいて心が少しだけ痛んで、

 "―――――はいはい、解ってます"

 ウェディングドレス姿が眩しくて、ちょっと目を逸らしてしまった。

 "肌を合わせると心が合わさるみたいだね"

 二人で包まったタオルケットの中、萌絵が腕の中で言っていたセリフを思い出す。
ちょっとくらいは、惚れ合っていたとか、信じてもいいかなって気になった。

 真面目に相手を見る、――――――か・・・。

 でもさ、それって、浮気されて捨てられて、それで近所のガキと衝動で迷走しちゃう萌絵くらい、ちゃんと"俺に恋をしてくれる"人が相手限定の事だよね。



 『篤君!あたしと付き合って!』

 そう言って俺の腕にくっついてきた最初の"彼女"は、登下校中も、街を歩いている時も、俺の事より周りを見てた。

 まるで他人の事のように観察しながらも、誘われるまま学生らしい放課後デートに付き合って2週間、

 『あたし・・・篤君なら、いいよ?』

 上目でそう言って誘ってきたから、

 『俺ン家ちは無理なんだよね』

 『大丈夫!うち、両親いつも遅いから』

 『・・・そ?じゃあ行こっかな』

 据え膳は頂くべきでしょう。

 前に萌絵から貰った 避妊具 ゴム が鞄に入ったままだったのはラッキーだった。

 部屋に入るなり、俺をベッドに引きずり込んだ彼女は、その奔放さから予想してた通り"ハジメテ"じゃなくて、

 けど、

 『――――――え、篤君って、あたしより前に"カノジョ"いたの?』

 "俺も初めてじゃない"って知った時の、彼女の顔が傑作。

 『っていうか、君も、俺より前に、彼氏いたんだ?意外だったなぁ』

 『ぁ、・・・あ』

 腰を振りながら言い放った俺の突きに喘ぎながら、こんな筈じゃなかったと複雑そうに眉を顰めた彼女の思惑は、翌日に判明した。



 『――――――篤!』

 久しぶりのセックスに体がダルくて寝坊して、二限遅れて登校したら、教室に入る前にレントに腕を捕まれる。

 『え、何?とうとう俺にも手を出しちゃう系?レント君』

 ちょっといつも以上に明るい雰囲気で応えただけなのに、

 『・・・そんな怖い顔しないの』

 『笑えないから』

 『ほんと冗談だって。で?どうしたの?』

 『篤、お前昨日、"あいつ"の家に行ったのか?』

 "あいつ"ってのは、一応俺の"彼女"の事で、

 『あ〜、まぁね』

 付き合った当初から、レントも萌奈も、あまりいい顔はしていなかった。

 『スゲェ噂になってる』

 『ふうん?』

 『・・・お前の童貞、あいつが貰ったって』

 『――――――へぇ?なんか変な言い回しの噂だね』

 つまり彼女は、俺を部屋に誘う前から友人達に宣言してたわけだ。

 "篤君の初めては、あたしが貰っちゃう"

 とか何とか?

 『ん〜、どうでもいいよ』

 『篤・・・』

 心配そうな顔で俺を見る親友に、俺は親指を立てて見せた。

 『心配ご無用だよ、レント君。俺ね、結構前に、男として十分に幸せな初体験してますから』

 『――――――は?』

 『だから現在、そのくだんない噂による精神的苦痛は受けておりません』

 『・・・』

 ――――――あれ?

 今度は、別の思考でレントの眉が中央に寄ったらしい。

 『うわ、何かなぁ?レント君。その顔、ちょっと怖いよ』

 『・・・オレ、聞いてない』

 『・・・ぷ』

 そこ?

 思わず噴き出した俺に、レントがムッと視線を向けてきた。

 あ、ヤバい。

 これ以上不真面目に答えると、本気で怒りそうだ。

 『まぁ、言ってないしね〜』

 『・・・』

 『言えない相手だったからね。意地悪したくて内緒にしたワケじゃないよ、レント君』

 意味深になった俺の言葉に、レントが何か考えるように視線を伏せた後、また正面から俺を見る。

 『・・・悪い。ちょっとスネた』

 『そういうとこ、可愛いねぇ』

 『お前なぁ』

 『はは、ごめんごめん』

 パンパンと、慰めるようにレントの肩を叩いて笑ってたけど、

 『さて、――――――どうしようかなぁ』

 このまま彼女と付き合ってくのなんて、もうちょっと無理だよね。

 レントと萌奈は、これで更に彼女を嫌いになっただろうし、親友カップルとダブルデートも出来ない"彼女"じゃなぁ――――――。



 よし、とりあえず。



 『――――――ごめんね、別れたいんだけど、いいかな?』

 『え?――――――あ、・・・』

 放課後。

 まだ帰宅前の生徒がたくさんいる風景の隅っこで。
 小声にはするけど、どうせなら"いかにも別れ話"って感じで目立たないと。

 『えっと・・・』

 案の定、彼女は周りの目を気にしている。
 時々、俺の機嫌を窺うようにしながらも、今後の動向を探っている。

 どうすれば、自分の立場を綺麗に出来るか、いっぱいいっぱい計算しているのが丸わかりで、そういうところ、可愛いとか、ちょっとは思う。

 『お互い、ここで終わった方がいいんじゃないかな。俺、直ぐに他の子と付き合うからさ、良いように話してくれていいし』

 『・・・え?』

 『俺と付き合って、セックス出来た事、それなりのネタにはなったんでしょ?童貞だったってトコは、肯定もしないし否定もしないから、好きなように適当に対処してくれていいよ?』

 「!」

 大きく開かれた目には、凄く戸惑いが見え隠れして、

 『俺の事、そんな好きじゃないんだろうなっては気づいてたけど、まさか"篤君の童貞"が狙いだとはサスガに思ってなかったや。女の子って凄いね』

 『・・・』

 『ま、俺も美味しい思いできたし、両成敗・・・ん?違うか。痛み分け?って事でさ。ここはこう、抱き合って、円満にお別れしてくれない?』

 『・・・ぅん』

 コクリと頷いた彼女を、そっと抱き寄せて背中をポンポンと叩く。

 『次はもっといい恋しなよ。ちゃんと相手を見れる恋。――――――ま、俺も人の事言えないけど』

 『・・・篤君・・・』

 『じゃあね』

 この出来事が、他人の目に映った"柏田篤の遍歴"の始まりだった。



 次に付き合ったのは、駅で見つけた大宮女子高の2年生。

 2つ年上。

 親について海外に行くかどうか迷ってて、思い切れるような経験がしたい、と。

 決断するまでの一か月。

 目いっぱい甘やかして、ラブラブにたくさんエッチして、

 『私、行くわ』

 そう行って手を振って去っていくのを、晴れ晴れとした気持ちで見送った。

 そんなこんなで充実しつつ、円工業高校に無事合格したその翌日だよ。

 両親の、胸を張っての離婚宣言。

 どっちと暮らす?

 そう聞かれて、

 "いや、出来れば一人暮らしで"と口にしてみたら、

 両サイドからいい感じで生活費がいただける事になり、

 『――――――は?萌奈と別れた?なんで?』

 『・・・悪ぃ。オレもまだ、良くわかんねぇからさ』

 2年以上も、相思相愛でキテたレントと萌奈が、春休み中に"まさかの破局!?"

 ワイドショーのテロップ並みの衝撃。

 しばらくすると、遠野ってヤツが萌奈の家まで迎えにくるようになっていて、――――――けど、あれって、

 『どういうつもりかな〜?萌奈』

 俺の問いに、萌奈は泣きそうな顔で口を結ぶだけ。

 『あいつと、そういう仲じゃないよねぇ?』

 好き同士の接触の仕方じゃない二人の距離。
 男の方は完全に萌奈が好きだけど、萌奈は全然。

 『・・・篤には、関係ない・・・』

 『ふうん?まあいいけど』

 『・・・』

 『俺、レントには次の恋、さっさと勧めるからね?いいよね?』

 『・・・ぅん』

 ・・・そんなこの世の終わりみたいな顔して、それでも、何で別れるとか思うかな――――――。

 お互い、絶対にまだ想い合っている筈なのに、それでも、そんな結末にしか辿り着けなかった恋の在り方の複雑さを、憧れすら以て見つめていたレントと萌奈に見せられて、



 かつ、



 『ねぇねぇ、アツシ君。好きになっちゃった。付き合って?』

 『アツシ君。彼氏いなくて寂しいんだ。短い間でもいいから。ね?』

 『あ、アツシ君。次はあたしと付き合ってくれるって言ったでしょ?今、フリーだよね?』

 煙突から落ちてきた善意の金貨が、偶然干してあった靴下に入ってくるように、女の子が次から次へとやってくるから、次第に、色んな感覚が麻痺していたのは否めませんとも。

 高2のクリスマス直前。
1年以上もの片思いを実らせて、親友のレントが美織んって彼女をゲットした頃には、俺の"彼女遍歴"は10人を超えていて、

 『ごめん、ちょっと気になる子が出来たから、別れてくれる?』

 『え〜?アツシ、早すぎ。なんであたしの時は2週間なわけ?』

 だって、俺以外に足開いてる子と、二度とセックスとかする気ないし。

 『あのさ、ちょっとセックスしてみたい子、見つけちゃったんだ。だからさ』

 『え〜?もう!ん〜、まぁしょうがないか。そういう約束だったもんね。いいよ。友達にも自慢出来たし』

 もちろん、付き合った子の中には、セックスや俺と付き合うって事だけが目的じゃない。
ちゃんと俺に向き合ってきた女の子もいたけれど、俺が楽しくなって優しくすればするほど、

 『・・・信じられないの』

 ――――――何が?

 聞きたかったけど、まだ明らかに俺への気持ちを持ったまま潤んでいる瞳を見ていると、

 『・・・わかった。ごめんね、不安にさせて』

 なんかもう、どうすればいいのか判んないや。



 だからここ1年は、そういう事を考えなくて済むような、セックス中心にお付き合いできるお姉さんに限定して楽しんできた。

 『アツシ?今日はどうする?泊まってく?』

 秋に入って、しばらく雨が続いてる。

 買い物袋を提げた手の、反対の手には紺色の傘。
 そんな俺の腕にくっついてるのは、今年社会人1年生で、恋愛対象として好きではないけど、癒しとして俺とのセックスを望む 女子 ひと

 『ん〜、どうしよっかな・・・』

 俺が空っぽの頭で考える振りをしていると、

 ―――――チチチチチ、チュチュチュ、

 降りしきる雨の音を縫って鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 釣られて見ると、軒下にさげられた鳥カゴの中に、青、黄、緑が混ざる、カラフルなセキセイインコが二羽。

 チチチ、チュチュ、チチチチチ、チュチュ、

 『・・・アツシ?何見てるの?インコ?』

 『・・・ん。セキセイインコってさ、いっつもキスしてるよね』

 『え?』

 チチチチ、チュチュチュ、

 『あんなにキスして、飽きたり嫌になったり、しないものなのかねぇ〜と思って』

 まぁ、求愛行動だとしたら生殖行為になるわけで、人間が快楽を求めてする行為と違って、その繰り返しに気を遣ったり、双方の機嫌なんて関係ないんだろうし・・・。

 そんな事をぼんやりと考えていたら、隣の彼女が、クイッと俺の腕を引っ張ってくる。

 『・・・ねぇアツシ』

 『ん?』

 『帰ったら、直ぐにエッチしよっか』

 俺を見上げる、4つも年上とは思えないくらいの可愛らしいオネダリ モード
 こういう時に感じるのは、恋愛の好きじゃなく、性行為を求める、男の本能としての"好き"――――――。

 『いいけど、明日も仕事でしょ?俺も学校で実習あるし、あんまり激しいのは無しね』

 『いいよ、激しくなくて。二人でスローセックス、しよ?』

 『珍しいね』

 『ふふ。なんかね、今日はアツシをすっごく甘やかしたい気分なの』

 『そ?じゃあ、甘やかしてもらおっかな〜』

 『キスもいっぱいしてあげるよ。あのインコ達よりラッブラブなヤツ』

 『・・・』

 ・・・別にそれが羨ましくて見てたわけじゃないんだけど――――――、



 まぁ、

 『楽しみにしてる――――――』



 小さい頃から、サンタさんに願ったプレゼントはちゃんと靴下に入ってきた。
 プレゼントの大きさに合わせて受け取り用の靴下を用意してた俺は、サンタを夢見ながらも、なかなか現実派のやり手だったと思う。

 そのプレゼントをくれていたのは、サンタさんじゃなくて実は親だったってオチを知ったのは、確か小3くらいか――――――。

 誠実な恋をしろと、初体験の相手に諭されてから4年。
 経験人数だけは順調にカウントを積み重ねて、すっかり遊び人の旗印を他人からつけられている、柏田篤、高3の秋。

 今年のクリスマスは、女体一つ入るくらいの大きさな靴下を枕元に置いてみようか――――――なんて。



 俺が、 近江 このえ 知紗 ちさ という女の子に出会ったのは、そんなバカな事を思いついた翌朝の事だった。








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