小説:食べられる花


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Episode:雪


 すごい。

 あたしの胸の形を容易く変えた王子の手が、思わず魅入ってしまうくらいに綺麗。
 指の間に乳首を挟んで捏ねる動きすら、うっとりと見惚れてしまう。

 滑るようにわき腹を下ってお尻に回った掌が、器用にあたしの腰を持ち上げて浮かせて、

 うわ――――――指がッ、指がぁ、王子の指が!
 あたしのヘアをふわふわしてるぅぅぅ。


 「…雪…見過ぎ。っていうか、観《・》察《・》し過ぎ」
 「だ…だって…」
 「うーん、どうせなら、もうちょっと色気ある見方をしてくれた方がいいなぁ」
 「え?」

 王子が、あたしの頭の下にあった枕を、よいしょよいしょと背中の辺りに高さをつけて整えた。
 上身が、なんだか二人の体をしっかり見渡せる角度になってしまった。

 「俺の指が何してるか、じゃなくて、――――――雪のあそこが、俺の指に何をされてるか」
 「…」


 それは、同じなようで、まったく違う魔法の言葉。

 「AVみてるみたいに、雪に冷静でいて欲しくない。俺が下手かなって疑ってへこむ」
 「いや、それは…ない、ですけど」

 感じていないわけじゃなかった。
 でも確かに、少しだけ他人事のような感覚で鑑賞していたのは否めないです、はい、ごめんなさい。

 「見てて」

 王子の手が、するりと胸の間を滑り落ちる。
 ぴくんと反応した体に合わせて、自分の胸の先が震えたのがよく見えるこの頭の位置。
 あたしの視線の先を邪魔しないように、王子は脇に頭を乗せて舌を伸ばし、胸を愛撫する。
 普段は見せないような挑発的な薄茶の眼差しが、あたしを見つめているのが視界の隅に映っていて、伸ばされた王子の手が、足の間に潜り込んできた。

 「開いて」

 音を立てながら胸にキスをする間に、そう囁いた王子の声が、いつもより強めの口調でドキリとする。

 「雪の大好きな俺の手、今何してる?」
 「あ、…ん、ゃだ」
 「ほら、教えて? 雪」
 「王子の、手が」
 「…俺の手がどうしたの? ひ、め」

 表面を、何度も撫でられている内に、敏感になったクリトリスが快感を拾い始めていて、

 「たく、みが、手が、触って、あ、ゃ」
 「見えるでしょ、雪。続きが欲しかったら、ちゃんと教えて? でないと別のところに手が入り込んじゃう。だって俺、見てなくて手探りだから」

 そう言って王子の手が進みだしたのはお尻の方。

 「ちょ、待って待って」
 「ん?」
 「言う、言うから、そこはまだ駄目!」
 「…へぇ? それって、いつかなら許してくれるんだ?」
 「えッ!? ゃ、ぇと…」

 いやいや、AVとか見て、気持ち好さそうだなとか、興味は津々なのは事実ですが。

 「まあ、あんなリスト作るくらいだから、したい事はまだまだいっぱい隠してるんだろうけど」
 「あ、あれはッ、ぁ、ん」

 再び、通《・》常《・》の入り口付近に戻ってきた王子の指先が、浅いところで回り始める。

 「俺《・》にして欲しかったリスト、なんでしょ?」
 「ま、漫画の王子様《ヒーロー》、ぁ、に、して欲し、…リス、トで、ぅ…お、王子ちが、王子違いだからぁぁ!」

 最後は、言葉と喘ぎ声が混ざっちゃって、ついでにあたしの頭の中も、気持ち良さと不機嫌さで大混乱。

 リストについては、あの後何度もあの手この手で追及されて、結局、ネットで書いてる裏小説のネタだって白状して、恥ずかしさで数日は悶えていたのに、それすらも王子に良いように扱われている。

 「たくみ、の、バカ、知ってる、クセに、あ、ゃだ、それ」
 「ここ? これ気持ちいい?」
 「…」

 やっぱり、いつも自分で触っているところは、感じやすく開発されてしまっている。

 「雪の指の長さの位置だね」

 耳元でクスクスと囁かれれば、もう何も隠さなくてもいいかなって思うくらい恥ずかしさで沈んだ。
 王子の性癖が、もしかしなくても分かった気がする。


 「言って、雪、俺の手に、何されてるの?」
 「…中、ぐいぐいされてる」
 「気持ちいい?」
 「ぅ、ぁ、きも、ち」

 これは、わざと?
 それとも、ただスポットがずれただけ?

 イキそうになる部分を掠めながら、決して溜まらない快感の渦に、物足りなさを感じ始めたあたしの体が、

 「あれ? 雪、少し体が動いたね? 自分であてにきた?」

 わざとか!
 わざとなワケねッ!?

 ならあたしだって、もう遠慮なんかしないもん!


 「お願い、たくみ、もう少し右…ぁ、そこ、そこいい、あッ、あぁ」
 「俺の手に、何、されてるの? 雪」
 「たくみの指が、ぐるぐる、してる、ぁ」
 「すごい、指が溶けそうなくらいのトロリとした溜まりがあるよ」
 「ゃだ、そこはダメ、出ちゃう、出ちゃうから、ああ、ぁう」

 中の刺激と共に、外側からも圧すような強い愛撫が親指で齎された。
 王子の手が、あたしのあそこを自由にしてる。
 今まで鑑賞してきた景色とは、まったく違う世界観で王子の手の美しさを想ってしまうのは、これはきっと、あたしの性癖。

 「つぶれ、ちゃう、強く、しないで、あッ、ああっ、イク、いくの」

 綺麗な王子の手に、こんな事をされている。
 されちゃってる。

 入り混じる感覚が快感に拍車をかけて、まるでボリュームが上がるみたいに、そこから聞こえる水音が物凄く大きくなって、


 「ゆ、き――――――ッ」

 不意に切ない声を出した王子が、珍しく余裕のない感じで深いキスをしかけてきた。
 それと同時に、昇りつめたあたしは果てる。

 「ん、んく、ッ」

 イキながら、呼吸を止められるみたいなキスをされて、その窒息感がまた、体中に変なオーガズムを促してきた。
 王子の舌に強く口内をかきまわされる感覚だけが妙に研ぎ澄まされて、指一本動かす力が入らない。

 キスに合わせて、全身が痙攣してる。


 お花畑――――――。



 「…こんなの、初めて…」


 王子の唇が離れいってからしばらくして、放心した状態で天井を見ていたあたしは、無意識でそう口にした後、直ぐに後悔した。
 まるで新人のAV女優に用意されてたセリフじゃないか、と脳内で自主突っ込み。


 「――――――雪」

 少しだけ、微笑みが含まれている呼びかけに視線を動かすと、自分のモノに手を添えて膝立ちをしている王子がいて、

 「ごめんね、もっと解してからがいいとは思うだけど」

 あたしの膝裏を抱えるようにして覆いかぶさってきた王子が、至近距離で見下ろしてくる。


 「もう食べていい?」



 真剣な王子の目に、乱れていた呼吸とは別の興奮が、ドクドクと音を立てて全身に流れ出す。


 「ゴ…ゴムは」
 「ちゃんと着けたよ」


 いつの間に。

 さすが王子、手慣れていらっしゃる。


 「雪」

 名前を呼ばれて、返事をする前にキスで唇を塞がれる。


 吸いだされた舌が王子の口内でしごかれる度に、子宮まで引っ張られてるみたいにキュンとする。


 「食べて、いい?」


 これはもう、あたしも覚悟を決めなくちゃ。


 「――――――うん。食べて、いい」

 「雪…」

 「たく、み…」


 王子の手が、あたしと王子の体の間でもぞもぞと動いている。

 何かが――――――じゃなくて、先端が蜜口にあてられた。



 「手、かして」


 それぞれの手を、ベッドに縫い付けられる。

 自分が何かの記号になったみたいな体勢に、やっぱりセックスって相反するものが多い行為だと改めて思う。

 子供を作るための行為なのに、卑猥で。
 愛を確かめる行為なのに、変態染みて。
 好きな人の前なのに、こんな格好とか。

 「こんなんじゃ、動け、ない、よ?」

 王子が容赦なくかけてくる負荷で、あたしの両手はベッドに沈んでいる。


 「いいの。雪は動かなくて」
 「…」


 不意に、王子が体を動かした。

 ぐん、と。

 あたしの中に挿入《はい》ってくる感覚。


 「ん…」
 「雪、キス…」


 少し強張ってしまったタイミングで、王子に唇を求められる。
 目をつぶってそれを受け入れれば、なんだかホッとして、力が抜けた。

 そんなたしに気づいたのか、王子の体にまた力が入る。
 押し広げられる、あたしのあそこ。


 王子の、凄く熱い…。

 見た目の大きさとは、違う質量を感じる。


 「おっき…」

 「…」

 額に、王子の吐息がかかる。

 何か言ったのか、伏せていた目を開けた瞬間、



 「…ッ」


 ぐいぐいと、王子が中に挿入《はい》ってきた。



 い、


 「雪、もう少し、我慢、ね」


 「そ、な、こと、」


 言われたって、


 「い、」


 信じられない、信じられない!



 「いったああああああああいッ!」












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